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ENERGY vol.10(2022年冬号)掲載

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「人的資本経営」に企業と人事部長はどう取り組むか~CHRO、人事部長が経営トップになる時代へ

いよいよ人事部長が経営の主役になるときがきた

経済産業省の定義では、「人的資本経営」とは人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のことを指します。
社内の人材育成や働きやすい環境整備は、多くの日本企業にとって以前から当たり前にやってきたことですが、人材を「資源」でなく「資本」であると明言した点が新しいといえます。
そして、人材が「資本」であるからには、適切な投資により価値を高め、投資結果を外部に公表し、企業価値向上につなげる必要があります。

人的資本経営への注目が高まる背景

欧米では、2000年代頃から企業に対して非財務情報の開示が求められ、2018年には「ISO30414」が発表されました。
国内での注目すべき動きは、やはり22年5月、経済産業省による「人材版伊藤レポート2.0」(※1)の公表でしょう。インソースは本レポートを日本企業の国際競争力を高めるに際し非常に価値ある提言と受け止めています。
また、直近では22年11月、金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案(※2)を公表し、有価証券報告書内でも情報開示が求められることとなりました。

人的資本経営における2つの企業課題

これらの流れを受け、当社は企業の課題は大きく2つあると考えます。1点目は人的資本情報の開示、2点目が人的資本の価値向上です。もちろん両者は密接に結びついています。

人事部長が経営の表舞台に立つ好機

戦略的に作られた人的資本情報は、国内外の投資家へのアピールとなり、直接的に自社の価値を向上させます。それがまさに、経営者から人事部長に期待していることで、自身と同等に株主と対話をして、全社の業績に責任を持つ立場となることを求めています。人事部長がより積極的に経営にかかわり、企業価値を創造する時代が到来したのです。

人的資本経営のステップ

当社は人的資本経営への取り組みを5ステップで考えています。

【ステップ1】 開示指標の決定~独自性を徹底追求

上場企業のコーポレート・ガバナンス報告書や有価証券報告書では、「人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備の方針」「当該方針に関する指標の内容」に関する開示が求められています。また、女性活躍推進法にもとづき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」が開示事項に追加されました。
逆にそれらを除けば、人的資本開示の内容や頻度・発信方法は、何か定めがあるわけではなく、自社の経営戦略次第ということになります。
受け手(投資家を中心としたステークホルダー)の期待に沿った開示を行うため、内閣官房「人的資本可視化指針」(※3)にも記載のある次の観点で考えます。

①自社の競争力を示す共通項目
投資家が最も注目するのはやはり、「従業員一人あたり売上」「従業員一人あたり営業利益」です。あらゆる人事施策の成果の表れるところといえます。これ以外にも、女性管理職比率など、ESGに関する項目は当然競合他社と比べられることになります。

②独自性と価値向上に注力
経営戦略と合致し、中長期的な観点での企業価値向上・価値創造との関連をストーリーで語ることができ、さらに社内にコミットできる(形骸化しない)指標を決定します。新規事業や業務改善のためのチャレンジなど、各社、人事評価制度やアセスメントと連動させた項目を設定しています。

③リスクマネジメント
「労働災害の発生件数」など、特に労働安全衛生確保に関する指標では、グローバルな視点では高評価を得られる可能性がじゅうぶんにあるものの、日本企業が強みと自覚していないことも多く、これらは積極的に開示すべき項目でしょう。

【ステップ2】 データ収集・開示~迅速・正確・低コストな仕組みを構築

これまで開示することなど想定していなかったため、全社にデータが散らばっており、その収集に多大なコストを要している企業は少なくありません。低コストで手早く正確に、情報を集めて開示できる仕組みの早期構築が必須といえます。

【ステップ3】 投資方針の決定

各指標の結果数値を見て、目標と、達成に向けた人材投資方針を検討します(As-is-To Beの把握)。各社の3大テーマは、次世代リーダー育成と女性活躍推進、DX推進です。どの分野でも、外部からの人材招へいが困難な場合が多く、社内人材の育成に注力する組織が増加しています。

【ステップ4】施策の実施~教育が最も重要

特定のテーマの研修受講率や社内会議の頻度のように、施策の実施がスコア向上に直結する指標もあれば、管理職に昇格した女性従業員数など、複数の施策を複合した結果が開示情報となる指標もあります。いずれにしても、ねらった成果に向けて、トップダウンでスピーディかつ戦略的に施策を実施することが大切です。

【ステップ5】 効果測定

人事部および人事部長の努力が、成果に表れるときです。経営戦略と開示指標、そして指標と各施策が連動していてこそ、関係取引先の経営者や投資家への説明が説得力あるものになります。

人的資本開示は、強いプレッシャーですが、「経営者への道が開かれた」と受け止めていらっしゃる多くの人事部長さまにお会いします。ぜひこの機会をとらえ、組織のみならずご自身も大きな飛躍を遂げられることを願っています。

(※1) 産業省「人材版伊藤レポート2.0」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
(※2) 金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府」
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221107/20221107.html
(※3) 内閣官房「人的資本可視化指針」
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

文/井上 彩

株式会社インソース 社長室 兼 事業推進室 室長。
2007年東京外国語大学外国語学部卒業。複合書店の店長としてマネジメント全般に携わる。 その後2012年インソース入社。コンテンツ企画や法人営業などのマネージャーを経験。 2度の出産育休を経て、2022年10月より現職。

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Vol.10 人的資本経営の進め方

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Vol.14 使えるアセスメント

vol.14は「アセスメント」がテーマです。 人的資本経営の注目により「人」の価値を引き出すことが重視されるようになりました。 客観的に評価・分析することができるアセスメントを活用することで多様な人材が活躍できる人事戦略に役立てることができます。 本誌では、採用、管理職育成など様々な場面でのアセスメント活用方法についてご紹介しております。

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