環境・社会・ガバナンスの3つの観点から「ESG」の取り組みを考える

環境・社会・ガバナンスの3つの観点から
「ESG」の取り組みを考える

地球温暖化による気候変動や異常気象、地球人口の急増による環境破壊の問題など、人類が豊かに生存し続けるための基盤である地球環境は限界に達しつつあります。そんな危機的状況から脱するべく、「サスティナブル(持続可能)な社会」に寄与することが、今や企業にとっての最重要課題の一つとなっています。

サスティナブル社会を目指す世界の潮流のなかで注目されているのが、「ESG」の観点です。環境問題や人権問題などの社会課題に対して企業がどう取り組むのか、あらゆるステークホルダーが注目しており、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの観点を取り入れた経営戦略を立案することが求められています。

そこで今回は、ESGについて分かりやすく解説したうえで、ESGの観点を自社の経営にどう取り入れていけばよいかのヒントをお伝えします。またESGとかかわりの深いSDGsについても解説いたしますので、参考にしていただければ幸いです。

1.あらためて考える「ESG」とは

「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉です。

企業が持続的な成長を維持するためには、ESGそれぞれの観点に対する取り組みを重要な「経営戦略」と位置づけ、推進していく必要があります。

【ESGの観点で自組織の経営戦略を見直す】
E:企業が提供する製品・サービスは、環境に配慮されているか?
S:企業に働く人の労働環境は、多様性があり働きやすい環境か?
G:法令遵守や情報開示の徹底などを通じて、透明性が確保されているか?

■「ESG経営」が広まった背景

2006年に、国際連合のアナン事務総長(当時)が、投資にESGの視点を組み入れることを原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)を提唱しました。投資家は企業への投資をする際に、その会社の財務情報だけを見るのではなく、環境や社会への責任を果たしているかどうかを重視すべきだという考え方です。

それによって企業は、大規模な投資を行う機関投資家から、汚染物質の排出状況や商品の安全性、供給先の選定基準や従業員の労働環境など、ESGにもとづく非財務情報の開示を求められるようになりました。

日本の企業でも、2010年に世界最大級の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことをきっかけに、「ESG経営」を考慮する動きが広まりました。

従来、株主の関心は企業の収益力や財務基盤の安定性にありました。しかし、不祥事発生による経営の悪化や、存続不可能となるリスクを避けるため、近年は一般投資家の間でも、投資先を決める際の判断基準としてESGへの取り組みを重視するようになっています。これを「ESG投資」といい、企業の長期的な成長を測る指標としてもESGは注目されています。

つまり、株主から選ばれる企業となり、機関投資家からの評価を向上させるESG経営は、企業にとって重要な株価対策のひとつと言えます。

2.ESG経営がもたらす事業運営上のメリットとは

株価対策だと言ってしまうと、株式を公開していない非上場企業にESGは関係ないように思えますが、決してそんなことはありません。持続可能性を阻害する社会的な課題の抜本的な解決が求められる現代において、企業がESG経営に取り組む姿勢をアピールすることは様々なメリットをもたらします。

①顧客ロイヤリティの向上
近年は、製品やサービスの良し悪しやプロモーションだけで企業ブランドの価値が判断される時代ではありません。企業活動による地球環境への影響や人権問題などへの配慮を重視したうえで、その企業の商品の購入やサービスの利用を決める傾向が、消費者の間でより強まっています。

つまり、企業がESGにしっかり取り組んでいる姿勢をアピールすることで、「顧客ロイヤリティ」、すなわち企業やブランドに対する顧客の愛着や信頼度を向上させることができます。

②優秀な人材の確保
ESG経営によって社会的評価が高まると、それに比例して企業イメージもアップするので、従業員のモチベーション向上につながります。社会貢献のできる企業の一員であるという誇りは従業員の愛社精神を高め、優秀な人材の離職を防止することができます。

また、労働環境の整備や人材育成、ワーク・ライフ・バランスへの配慮など人的資源を大切にすることで、優秀な人材の採用・確保という好循環も期待できます。

③経営リスクの回避
インターネットの普及やコンプライアンス意識の高まりといった社会変容を背景に、従来見られなかったケースでの不祥事の発生リスクや、世間からの批判リスクが顕在化しています。企業における不祥事は業績に悪影響を及ぼし、株価の下落や企業の社会的信用を失墜させる要因ともなりかねません。

組織体質、企業文化、マネジメントの質などのガバナンスに問題がないかなど、ESGの視点は、リスク管理の観点においても極めて重要です。経営リスクを回避することは、結果として長期的な成長や安定化につながります。

3.自組織でできる具体的な取り組みとは

一般的に知られているESG活動としては、以下のものが挙げられます。

【ESG活動の例】

E:環境問題への取り組み
→温室効果ガス排出、再生可能エネルギー、海洋プラスチックの問題など

S:従業員や社会に関する取り組み
→労働環境への配慮、人権問題への対応、地域社会への貢献など

G:規律・企業統治(Governance)の効いた取り組み
→コンプライアンス・情報開示の徹底、経営幹部の報酬決定方法の開示など

中でも、E(環境)やS(社会)の問題はスケールが大きすぎるため、一企業の取り組みだけで解決するのは困難ではないかと考えられがちです。

しかし、このままESG活動に取り組まないでいると、2000年以降に成人を迎える「ミレニアル世代」からの支持を得るのが難しくなります。近い将来、ミレニアル世代が企業を取り巻くステークホルダーの中心になると、商品の品質の良さやコストパフォーマンスだけではなく、企業の環境への配慮や、社会課題への取り組み姿勢などを重視する傾向が強まると言われています。

組織の中長期的な成長のためには、自社でもできるESGへの取り組みがないか、多面的に考えてみる必要があります。

(1)環境負荷を減らす取り組み~限界費用ゼロの事業創造

自らの事業活動に伴う環境負荷低減や環境配慮への取り組みには、「低減や削減」といった「守り」と、環境に優しい「新たな事業創出」などの「攻め」の2つの方向があります。

■限界費用ゼロの事業創造
「限界費用」とは、増産しようとしたときに増えるコストのことです。
例えば、すでに稼働中の工場があるという前提のもとで、製品を1単位多く作ろうと思った時に必要となるコストは、1単位分の原料代だけです。これが限界費用です。

追加費用なしで価値を増産できることを、「限界費用ゼロ」といいます。例えば、映画や音楽のストリーミングサービスは、会員が一人増えてもそれに伴ってコストは増えません。つまり、限界費用ゼロで価値の増産ができるということになります。

【限界費用ゼロの例】
・太陽光発電設備があれば、発電にかかる限界費用ゼロで電気を使える
・3Dプリンターを導入すれば、製造設備などの莫大な初期投資を要することなくわずかな原料代のみ(限界費用ほぼゼロ)で自在に造形物を作ることができる
・オンラインで授業を提供するMOOCの登場によって、世界レベルのクオリティの教育コンテンツを限界費用ゼロで全世界に提供できる

これらはいずれも、「資源」や「エネルギー」の消費を伴わずに、顧客に「価値」を提供できる可能性を示す例です。ここに何らかの課金のしくみを取り入れることができれば、環境負荷の小さなビジネスとしてテイクオフさせることができると考えられます。

(2)社会に関する取り組み~従業員・取引先・地域との「共存」を目指す

これからの企業が生き残るには、自社の利益のみを追求するのではなく、従業員、顧客や取引先、地域といったあらゆるステークホルダーとの共存を考えることが欠かせません。自社とつながるすべてのステークホルダーに対してできる貢献を考えることが、身近な社会への取り組みにつながります。

■「人」を大切にする職場をつくる~従業員への貢献
人権や労働問題について広く考える前に、まずは自社の従業員の人権が守られているか、生き生きと働く環境が整備されているか、見直してみてみましょう。

①ダイバーシティ(多様性)の推進
女性、シニア層、障がい者、LGBTや外国人など、これまではマイノリティとされていた人材の価値観や視点は、新サービスや商品、事業案の創出をもたらします。また、多様な人材の活躍を通じて、労働力不足、人材確保の問題を解決し、多様化するマーケットの変化への対応力を高めることができます。

②労働安全衛生
「労働安全衛生法」では、健康診断など労働者の健康に関する措置を規定しています。近年、メンタルヘルス不全者が増えていることもあり、ストレスチェックなど、従業員の精神的な健康についても配慮するよう定められています。

企業の従業員に対する安全配慮義務は、G(ガバナンス)の観点においても重要です。社内に安全衛生委員会を設置し、労働災害の防止や従業員の健康管理を目的とした安全衛生管理の推進に努め、具体的な取り組みを積極的に情報発信していきましょう。

③人材育成
人材の育成なくして組織の成長は望めません。組織が持続的に成長するためには、将来を見据えた視点で教育を考え、自組織に合った人材育成体系の構築が必要です。求められる人材像や評価軸が明確になることで、一人ひとりのモチベーションを高く維持でき、生産性向上につながります。

④雇用の確保
人々の豊かで安定的な生活を守るため、できるだけ経済の変動を回避し、雇用を確保することは大変重要です。障がい者雇用の促進、人員削減などの雇用不安をなくす、高年齢者の就業確保に努めることも企業に求められています。

■2つの消費者運動に配慮する~顧客への貢献
顧客が何を重視しているか考えるうえで、以下2つの消費者行動は押さえておく必要があります。

・「グリーン消費」
 できるだけ環境に配慮した製品を選んで環境を守っていく消費者行動

・「エシカル消費」 
 社会や環境に対して十分配慮された商品やサービスを選んで買い求める行動

サスティナブル社会の実現に関心のある人は、企業が原材料の加工から製品の販売に至るまでの全過程(サプライチェーン)において、社会や環境に対しての配慮がなされているかチェックしています。自社がいくら低コストの仕入れを努力していても、仕入れ先の会社がコスト削減のために環境破壊や不当な労働搾取を行っていたら、消費者から選ばれなくなってしまいます。もちろん、自社の利益のためにサプライヤー(原材料の生産者)に不当な圧力をかけている企業も敬遠されます。

サプライチェーンのすべての企業がESGの観点にもとづく経済活動を行うことで、自社の社会的な信頼性が高まり、顧客との良好な関係を維持できます。

■「グリーン調達」や「CSR調達」に対応する~取引先への貢献
グローバル企業を中心に、環境負荷の低さを取引先の選定や購入の基準とする「グリーン調達」や、CSR(企業の社会的責任)の実施状況を選定基準とする「CSR調達」が広がりつつあります。 取引先選定の基準が"持続可能性"へと変化しており、これに応え得る企業であることをアピールして事業機会を喪失させないことが重要です。

■「地域循環共生圏」に参画する~地域への貢献
各地域が足もとにある地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合いながら、地域の活力を最大限に発揮することを目指す考え方を「地域循環共生圏」といいます。

この考え方では、各地域が抱える環境・経済・社会問題の解決を目指し、ある地域の自然資源と別の地域の資金や人材を統合的に循環させることで、持続可能な社会の実現とともに、各地域の活性化を図ります。そのための地域の構想づくりや環境ローカルビジネスの実現に向け、豊富な経営資源を保有する企業の貢献が期待されています。

4.SDGsとの関係

ESGと切り離して考えることができないのが、SDGs(持続可能な開発目標)です。2015年の国連サミットで、2030年までに達成させるべき社会・環境・経済などの17分野の社会的課題と169の具体的なターゲットが発表されました。

気候変動や貧困、格差の拡大、ジェンダーの不平等など解決すべき社会課題は山積みです。SDGsが掲げる、地球上の「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、民間企業を含めたあらゆるステークホルダーが目標達成に向けた取り組みを実施する必要があります。

【SDGs 17のゴール】
1.貧困をなくそう 2.飢餓をゼロに 3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに 5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に 7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も 9.産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう 11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任つかう責任 13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう 15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に 17.パートナーシップで目標を達成しよう

これらの目標を達成させるには、多額な初期投資がかかるものもあります。実SDGsの達成には世界全体で年間5兆~7兆ドル、開発途上国だけでも年間約3.3兆~4.5兆ドルの投資が必要になると言われています。

SDGsへの取り組みを盛んにすることで投資家の注目を集め、より多くのESG投資を集められれば、資金調達を容易に行うことができます。そのためには、自組織でできることをいち早く打ち出し、その成果をアピールする必要があります。

■まずは小さな取り組みから始める
17のゴールをよくよく検討してみると、自組織でもできる活動があると思います。例えば、リサイクル活動やクールビズは「13.気候変動に具体的な対策を」、管理職に占める女性比率向上の施策づくりは「5.ジェンダー平等を実現しよう」に該当します。まずは小さな取り組みからでも始めてみることが重要です。

【参考】インソースでの取り組み事例

4. 質の高い教育をみんなに / 8.働きがいも経済成長も
→研修を通じて働く人のスキルアップを図り、働きがいも経済成長も同時に実現することを目指す

16.平和と公正をすべての人に
→コンプライアンス、リスクマネジメントなど、公正な社会を作るための研修サービスを提供 

など

まとめ

いかがでしたでしょうか。

現在、ESGへの取り組みは全ての企業の責務となっています。2000年代におきたCSR活動のブームは、どちらかというと社会貢献的な側面が強いものでしたが、ESG/SDGsの考え方が出てきたことによって、企業の経済活動と社会課題の解決を両立させる仕組みは整ったといえます。

ESGに取り組む企業は顧客に評価されます。同じ業績でも、ESG/SDGsに取り組む企業の方が「価値が高い」と判断され、株価にも反映されます。企業がこれからの時代を勝ち残るための成長戦略として、ESGの観点を取り入れていきましょう。

<関連リンク>

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