年間50,174 名(※)の中級管理職研修を実施してきたインソースでは、新たに課長になる人向けにどのような研修内容を企画すればよいか、企業の人事ご担当者さまからのお悩みをよくお聞きしています。
そこで今回は、これまでの知見を通じて弊社がまとめた、あらゆる企業で課長に求められている視座やスキルについてお伝えします。新任の課長、あるいは課長候補の係長の方のこれからの活動の指針として、あるいは人事ご担当者さまの階層別教育における問題解決の小さなヒントとして、ご活用いただければ幸いです。ぜひご一読ください。
2023年10月~2024年9月に実施した講師派遣型研修及び公開講座型研修数
課長とは ~将来の幹部候補としてのスタートライン
それまで現場リーダー的な立場であった係長としての働きとどこが違うのか分からないまま、課長職に就く人もいるかもしれません。しかし、係長と課長の立ち位置は明確に異なります。
(1)名実ともに「管理職」の仲間入り
課長は、多くの組織において「中級管理職」と位置付けられています。係長時代にはなかった管理職としての職務権限が与えられる、管理職手当がつく、など"名実ともに管理職"と認められる立場となります。組織によっては「専任課長」として管理職権限が与えられていない課長職もありますが、多くの組織では「課長以上=管理職」であり、経営陣の一翼を担う「マネージャー」としての働きが求められるようになります。
真の管理職になったことを実感するミッションとして、経営陣が顔を並べる全社会議への参加をあげる方がいます。経営トップの考えに直接触れる機会が増えることで、係長時代よりもさらに深く組織の経営理念にコミットできるようになる一方、課の数値目標達成が果たせない場合にはトップとしての「責任」が生じるなど、プレッシャーも大きくなります。
(2)プレイングマネージャーからプロデューサー的な立場への転換
プレイングマネージャーでもあった係長時代なら、「今月はチームの数字が上がっていないな」と思ったら、自分の働きで挽回することもあったかもしれません。しかし、課長は自部門(課)のトップとして、課の中に属している複数のチームの成果を出すことが求められる立場です。仮に自部門(課)のチームすべての数字が悪かった場合、これまでのように自分一人が動いて挽回するのは、時間的にも業務量的にも厳しいものがあります。
つまり課長になったら、自らが前面に出て道を切り開く立場から、俯瞰的にチームを見ながら現場をフォローすることで成果を出す「プロデューサー」的な立場にシフトしていかなくてはなりません。
課長時代にマネジメント力を高めて自部門(課)の実績をあげることができれば、将来の幹部候補としての道が開けます。課長の役割をしっかりと果たし、組織の期待に応えることで、次のステージ(部長へのステップアップ)が見えてきます。
課長の役割とは
まず、すべての管理職に共通する役割として、以下の3つが挙げられます。
- 業務遂行・管理における役割
- 教育・指導者としての役割
- プレイヤーとしての役割
係長時代に続き、これら3つの役割を果たすことが大前提としてありますが、課長には係長よりもさらにレベルの高い役割を果たすことが求められます。
中間管理職である課長には、上位の管理職(部長)が打ち出す方針に従い、現場のトップとして日々PDCAサイクルを徹底的に回しながら、現場を円滑に動かすことが求められます。組織の経営理念を十分に理解したうえで、現場に新しい施策を浸透させるためのプランを立案・実行し、その効果を確認しながら改善を図り、成果を生み出す「現場責任者」の役割を果たさなければなりません。
自部門(課)の成果を効率よく出すためには、「適材適所の最適な役割分担」を行うことが重要です。部長クラスと違い、現場をよく知る課長クラスだからこそ、部下の能力を最大限に活かす人員配置が可能です。経営戦略の実現に向けて経営陣が描く組織図をより"実践的な"ものにするために、現場のトップとしての意見を伝えることも課長の重要な役割のひとつと言えます。
課長の仕事とは
課長には、「自部門(課)で前年比3割以上の成果を出す」ことが求められます。当然、課長一人の努力で達成できるものではなく、部下の力をひとつにまとめ上げる手腕を発揮してこそ、管理職としての責任を果たしている、と言うことができます。
そこで、部下の力を最大限に引き出し、自部門(課)が目標を達成できるよう現場の環境を整えていくことが課長の主な仕事となります。具体的には、以下3つの観点からマネジメント(管理)を行います。
- ■組織のマネジメント
- 組織は管理職自身を含め、複数のメンバーから構成されます。組織として最大の成果を上げるためには、メンバーのエネルギーのベクトル合わせをすることが必要です。そのために欠かせないものが、組織目標です。まずは「組織目標の設定と共有」を図ることが、組織のマネジメントのポイントです。
- ■業務のマネジメント
- 業務のマネジメントとは、メンバーの業務の「分業」と「調整」をすることです。分業とは、業務を細分化し、それを誰に担当させるかを決めることです。そして、これらの複数の業務が円滑に行われ、組織として最大の成果が出せるように調整を行うことが、課長の日常業務の中心です。
- ■人のマネジメント
- 組織を構成するのは「人」です。したがって、「人」を強化することが組織を強くすることにつながります。
- 人のマネジメントとは具体的には「育成」、「配置」、「評価」、「労務管理」のことです。これらの3つの観点に基づき、課長が日々行う業務は次の5つとなります。
(1)組織目標を設定し、メンバーに共有する ~組織のマネジメント
事業内容・意義を十全に理解したうえで、具体的な数値目標を設定し、達成させるための戦略を立てることが課長の仕事です。目標の策定方法には、課長が自らの意志に基づき策定するトップダウン方式と、部下に目標を考えさせるボトムアップ型があります。ボトムアップ型で部下の意見を聞いたとしても、最終的に目標を決定するのはチームのトップである課長の役目です。
しかし、目標を設定するだけでは課長の仕事としては不十分です。目標達成に向けて部下全員がその目標を正しく理解し、共有したうえで、エネルギーのベクトルを同じ方向に向けるよう尽力します。
部下のベクトルを同じ方向に向けるためのポイント
①納得させる
課長は目標設定の最終決定者として、なぜこの目標に決定したのかを部下にきちんと説明し、納得させなければなりません。
②繰り返し語る
目標共有のためには、形式的に壁に張り出しておくだけでなく、日常的に「繰り返し」「語る」ことが必要です。
③熱く語る
繰り返し語っても、それが事務的だと部下の心に響きません。この目標を達成することがいかに自分の部署、会社の発展、社会への貢献につながるのかという思い(信念)を伝えることが重要です。
④PDCAサイクルに組み込む
日常業務と密接な接点がないと目標共有は進みません。PDCAサイクルに目標の進捗確認作業を組み込み、日頃の業績管理を通じて、日々目標に立ち返るよう課長から部下に働きかけると効果的です。
(2)最適な業務分担を決定し、業務指示と進捗確認を適切に行う ~業務のマネジメント
設定した組織目標の達成に向けて、課長には最適な業務分担を行うことが求められます。業務分担の決定にあたっては、現時点でその業務を遂行するうえで必要なスキルや経験が備わっている部下を割り当てるのが最も妥当です。
しかし、部下育成という観点においてはその限りではありません。例えば、若手社員には課内の業務全般を理解させるために一定期間のローテーションで新しい業務を担当させる、中堅社員には管理職へのステップアップの意識づけとして個別業務ではなくいくつかの業務を束ねるようなものを担当させる、などの工夫も必要です。課長には短期的かつ長期的な視点で考えることが求められます。
また、個々の業務の範囲においては、部下に方向性を示しつつ裁量を与えることも大切です。もちろん任せっぱなしにするのではなく、課長が進捗を確認したうえで、完全遂行できるようフォローしていくことが重要です。
分担が決まったら、目標達成に向けて適切な業務指示を行い、「期限間際になって作業が思うように進んでいないことが判明」といった事態にならないよう、日々進捗確認をします。
適切な業務指示とするための要素は「3W1H」
①「誰が(WHO)」
担当者を明確にします。「誰かやっておいて」と言うだけでは、部下は自分以外の誰かがやるだろうと考えて、結局誰もやっていなかったという事態になりかねません。
②「何を(WHAT)」
やるべきことを明確に伝えます。何をやったらいいかわからないような指示は指示とは言えません。部下の立場で「何を」すべきか、それがわかるかどうかを自問自答してみるべきです。
③「いつまでに(WHEN)」
解釈の余地がない、具体的な期限を伝えます。あいまいな期限は期限を設定していないことと同じです。管理職は、「締め切りのない仕事はいつまでも終わらない」と心しておきましょう。
■期限に関するNGワード例
「なる早(なるべく早く)」 「午後一」 「来週の前半」
④「どうする(HOW)」
期待されるアウトプットレベルを明確に伝えます。部下からの報告内容がイメージと違うということがあれば、部下側の問題よりまずは管理職からの指示が適切でなかったと考えるべきです。
(3)部門全体に影響する業務改善を行う ~業務のマネジメント
係長時代は自ら率いるチームの業務を見直し、業務のムダを徹底的になくすことが求められていました。しかし、課長にはより高い視座と広い視野で、自部門(課)全体に影響を及ぼす問題を発見し、改善することが求められます。業務プロセスの分解、再構成を通じて、持続的に人時生産性を高めることで部門全体の生産性向上につなげるのが課長の仕事です。
問題発見のための6つの視点
①顧客視点
顧客は満足しているか、品質は顧客の要求を満たしているか、組織の姿勢は顧客の望むものと同じか、など顧客の視点で考えてみます。
②業務の視点
仕事がやりにくいと感じる時は、ムリやムダが必ずあります。ムリやムダがあるとミスも起こりやすくなります。業務の流れをもう一度検討しましょう。
③業務遂行者(同僚、取引先)など人の視点
仕事においては、取引先、同僚など、必ず業務の「相手」が存在します。相手の立場・視点に立って考えれば、問題点を容易に発見することが可能です。
④財務の視点
お金がきちんとマネジメントされているか、浪費されていないか、を考えます。
⑤組織目標の視点
仕事は組織の一員として達成していくものです。自分が置かれている組織の目標と照らし合わせ、改善点を見つけてみましょう。
⑥比較の視点
他の組織では?他業界では?他国では?など、比較の視点で考えます。
(4)自部門に関するリスクを認識し、対策を練る ~業務のマネジメント
管理職がすべきリスク管理とは
①リスクの予測と評価
顕在化が想定されるリスクの洗い出しとそれらへの対応の優先順位をつける
②リスク顕在化時の対応
リスク顕在化時の初動を決定するとともに、実際に動けるようにする
③リスクが顕在化しない仕組みづくり
ルール策定と徹底できる組織をつくる
自身の業務上のリスクだけでなく、部下の業務上のリスクも洗い出したうえでチーム全体の対応を検討しておく必要があるのは、係長も課長も同じです。しかし、業務改善と同様に課長に求められているのは「より高い視座と広い視野」に立ったリスク管理です。特に、労務管理や個人情報の管理など、法令に則った対応が求められる項目については、最新の知識を踏まえたうえで対策を講じなければなりません。
(5)人が育つ制度・仕組みを整える ~人のマネジメント
人材育成の基本はOJTです。自らの判断・責任のもとに行動できる人材、広い視野で物事を捉え、自らの責務を理解し、柔軟に変化に対応できる人材を育成するためには、「戦略的なOJT教育」が欠かせません。
OJT担当者として新人につくのは中堅から係長クラスまでという組織がほとんどです。課長になったら、これまでの部下指導の経験を活かし、人材育成の「プロデューサー」として部下の自立と戦力化を促進するOJTの仕組み作りに携わることが仕事となります。
プロデューサーとして戦略的なOJT教育を行うためのポイント
①到達目標を定める
まずは組織人材として求められる中長期的目標 (1年、3年、5年)を決めます。そのうえで、その実現に向けての短期的な目標 (1週間、1カ月、3カ月、6カ月)を、OJT担当者や部下本人と相談して決めます。短期的な目標については、重点課題に的を絞り、基礎スキルを徹底的に体得させるようにするとよいでしょう。
②育成計画を策定する
育成の基本は「計画的」であることです。到達目標と現状を踏まえ、どのような職務経験を通じて何のスキルを身につけさせ、どのようにして部下の能力向上を実現させるか考えたうえで、効果的なOJTができる計画を立てます。また、計画した仕事をタスクに落とし込み、きちんと部下に明示していくことも重要です。
③指導方法を検討する
ただでさえ忙しい先輩社員が自分の仕事に加えてOJT担当者になると、仕事や時間といった物理的負担はもちろん、精神的な負担も増えます。担当者一人に任せきりにせず、教える内容によっては他の先輩社員にも指導を依頼できるか検討すべきです。また、新人が複数人いる場合は、自ら講師役となりミニ研修のようなものを開催したりするのもよいでしょう。
課長に求められるスキルとは
係長時代の経験を通じて培われたマネジメントスキルは、課長になっても引き続き求められるものです。基本的なマネジメントスキルに加えて、新たに「変革リーダー」や「イノベーター」としてのスキルも身につけていく必要があります。
基本的なマネジメントスキル
①部下指導・育成スキル
コーチング、リーダーシップ、OJT、部下モチベーション向上、コミュニケーションなど
②業務管理スキル
業務改善、目標管理、ヒューマンエラー防止、整理力向上、タイムマネジメント、など
③リスク管理スキル
コンプライアンス、ハラスメント防止、クレーム対応、法務、メンタルヘルスなど
新たに求められるスキル
PDCA、創造力、組織変革力、判断力の強化など
「現場のトップ」である課長にまず求められるのは、何と言っても「PDCAを回す力」です。新しい施策がきちんと現場に浸透するまで、課長としてのPDCAサイクルを回し続けることが重要です。
そのうえで、自部門(課)における改善・新しいビジネスチャンスなど「変革の芽」を見つけ、提言し、実際に行動を起こすことも必要です。変革リーダーとしての資質を磨き、年に一つは自部門にとって価値ある新しい事を生み出していけるよう、創造力や判断力を強化するとよいでしょう。
課長と係長の違いとは
係長はチームに与えられた目標達成に向けて、メンバーを動かしながら自らもプレイングマネージャーとして成果を出すことが求められる立場です。管理職として目標達成に向かってチームを牽引しつつ、自身も突出した成果を上げて組織に貢献する姿を見せることで、部下に良い影響を与えていく、つまりリーダーシップを発揮することが係長の働きであると言えます。
一方課長には、リーダーシップを前面に発揮するよりも、中級管理職としてよりマネジメントに軸を置いた働きが求められます。組織のビジョン・経営方針を自部署の目標に落とし込んだうえで、その目標達成に向けて最適な役割分担を行い、部下の能力を最大限に引き出す「プロデューサー的」な働きをすることが、係長と課長の違いです。
課長と部長の違いとは
課長の立場はあくまで「現場のトップ」であることです。組織の方針に従い、自分の持ち場をどう動かすかを考えるのが課長の仕事であり、自部門(課)の目標達成を実現するところまでが課長に求められる役割です。時に部下と上司との板挟みとなり、まさに「中間管理職」のイメージが強い立場ですが、「現場と経営陣との橋渡し」として機能することが期待されます。
部長は現場の中心から、より"経営陣寄り"の立場となり、トップの経営判断をサポートする仕事にシフトするのが、課長との大きな違いです。いかなる経営環境においても組織が成長を続けるために、各部門の成長戦略とリスク管理を両立させながら組織をデザインし、業績拡大を実現することが部長の主な役割と言えます。また、時代のニーズを踏まえ新しい仕事を生み出し、組織の成長に直接貢献することが期待されます。
最後に ~課長の仕事が一番面白い!
豊富な経験があり、部下があり、裁量もある。加えて、気力・体力も充実している。そうした充実感を最も得られるのは、多くのビジネスパーソンにとって「課長時代」ではないでしょうか。実際に現在は経営層クラスで、過去に課長職を経験された多くの方が、「課長の仕事が一番面白かった!」とおっしゃっています。
課長になられて日の浅い方や、今現役で課長をなさっている方の中には、「課長の仕事」の広さと深さ、多忙さにとまどい、その「面白さ」をまだ実感できていないという方もいるかもしれません。自ら動いて成果を出すプレイングマネージャーとして活躍していた方は尚更でしょう。
しかし、ヒト・カネ・モノといった組織の経営資源を現場に上手く配分し、チーム全体で上げることができた成果には、一人の力で出した成果とはまた違った"達成感"があります。そうした管理職としての経験を積み重ねることで、一プレイヤーとしての意識から脱却し、次世代幹部候補として組織マネジメントにあたる"手ごたえ"と"覚悟"が生まれます。
つまり、充実した課長時代を過ごすことが、その後の大きな飛躍につながると言えるのかもしれませんね。