前編では、これまでの組織論であまり語られてこなかった「フォロワー」についてお届けしました。リーダーにとって都合のいい「従属者」という存在から脱却し、ともに組織の共通目的を実現するための「パートナー」になることで、フォロワーとしてはもちろん、一人のビジネスパーソンとして大きなやりがいを見出すことができます。
今回は、どのようなフォロワーのタイプがリーダーの良き「パートナー」になれるのか、フォロワーの考え方や行動に基づく4つのタイプを解説します。また、リーダーへの支援力や提言力を磨き、フォロワーとしてさらに成長するにはどうすればよいかについてもお伝えします。参考にしていただければ幸いです。
前編では、フォロワーとしての最も本質的な役割と言える「部下としてリーダーをサポートする役割」を果たすために必要な2つの力「支援する力」と「リーダーに提言する力」についてお伝えしました。
▼フォロワーに求められる2つの力についてはこちら(前編)をご覧ください。
この2つの力をマトリックスの2軸としたうえで、フォロワーの考え方や行動に基づき、次の4つのタイプに分けることができます。
(1)パートナー(支援:高、提言:高)
積極的にリーダーを支えると同時に、組織の共通目的のためならリーダーの言動や方針に異を唱えることも辞さないタイプです。リーダーとはもちろん、周りの人とも調和しながらも決して流されることなく、組織の問題に果敢に立ち向かえるこのタイプこそ、リーダーにとっての「真のフォロワー」であり、組織力の最大化に貢献することができます。
(2)実行者(支援:高、提言:低)
自分の職務をきっちり果たし、率先してリーダーの支援を行うことができるタイプです。何も言わずとも、リーダーの考えていることを先回りして実行してくれるので、頼りになる存在である一方、リーダーを批判しない「イエスマン」にもなりがちです。そのため、リーダーが誤った判断をしていても意見できず、たとえできたとしても否定されると簡単に引き下がってしまいます。
(3)個人主義者(支援:低、提言:高)
リーダーを始め、周囲に対して自分の意見をはっきり主張できる一方、リーダーを支援する意識に乏しく、あまりに不遜な態度で周囲と対立してしまうことも珍しくありません。忖度せず組織の問題に切り込むことができるフォロワーは貴重な存在ですが、メンバーが一丸となってリーダーを支えようとしているチームにおいて「浮いた存在」になってしまうこともあります。
(4)従属者(支援:低、提言:低)
給料に見合うだけの最低限の仕事のみを行い、それ以上の働きをしないという人が、どこの組織にいるものです。言われたことだけやろうとする指示待ち人間でいては、良きフォロワーとしての役割を果たすことができません。
中には、育児や介護など他に優先すべき事情を抱えているため率先してリーダーの支援にあたれない、という人もいるかもしれません。しかし、どうすればチームのメンバーと協力して仕事を前に進められるか、多様な視点を活かしてリーダーへ提言できることはないか、といったことを常に考え、発信していくことができれば、フォロワーとしての存在感を示すことができます。
全てのフォロワーが(1)のタイプなら、黙っていてもリーダーへの支援力と提言力を存分に発揮し、組織の発展に貢献することができます。しかし実際には、2つのうちどちらかの力が不足している、あるいはどちらも足りないフォロワーが多いものです。どうすれば足りない力を補い、成長することができるのでしょうか。
リーダーへ報告をしているときや、リーダーからアドバイスをもらうとき、リーダーがよく口にする言葉は何でしょうか。その「キーワード」こそ、「このポイントで考えてほしい」というリーダーの「判断軸」です。リーダーはフォロワーに対して、「その判断軸を持って仕事をすすめ、報告をしてほしい」と思っています。
■具体的な判断軸の例
・緊急度や優先順位を意識しているか
・推測ではなく、事実に基づいた判断かどうか
・コストパフォーマンス(費用対効果)を念頭においているか
・その対策を実施することによって、他業務に悪影響を及ぼさないか など
自分の判断軸で考えるのではなく、リーダーの判断軸(ひいては組織としての判断基準)で考える習慣を身につけることで、共通目的の実現に向かって奔走するリーダーを支えるために自分にできることは何か、明確になるはずです。
また、リーダーは各担当業務の隅々まで把握できているわけではありません。リーダーの判断を助けるために、より現場を知っているフォロワーが、起こったことや状況などの事実を報告し、リーダーが判断できる材料を揃えることも、目に見える支援の形のひとつです。
フィードバックというと、普通は上司から部下にするものと考えられがちです。しかし、共通目標の実現のために自身の考えをリーダーに提言していくことも、フォロワーの大切な役割です。日頃からリーダーを積極的に補佐し、リーダーの目線で考えることができるフォロワーからの提言であれば、リーダーはその内容を重視するものです。
ただし、いくら信頼を寄せるフォロワーからのフィードバックでも、伝え方を間違えると、せっかく築いた人間関係にヒビを入れかねません。リーダーも一人の人間です。個人的に攻撃されていると捉えられてしまったり、リーダーのプライドを傷つけるような言い方をしてしまうと、フォロワーの提言を快く受け入れてもらえなくなります。
リーダーを慮ったうえの進言であると受け取ってもらうためには、伝え方を工夫する必要があります。
(1)なるべくリーダーと二人きりの時に提起する
上司から部下へ注意しなくてはならない場合、別室に呼ぶなどの配慮をするのは、部下指導の際の鉄則です。それと同様に、リーダーに批判的なことを言わなければならないときも、できるだけ他の人が周囲にいないタイミングで切り出すようにしましょう。
しかし、多忙なリーダーほど常に周りに人がいるものです。リーダーが一人になるのを待って適切なタイミングを逃してしまうよりは、割り切って人前でフィードバックする勇気も時には必要です。その場合、こちらの言い分を一方的に話し続けてリーダーのメンツをつぶしてしまうことのないよう、ほどほどにしておくのがポイントです。
(2)間接的に異議を申し立てる
リーダーの計画に欠点や問題があると感じても、それを正面切って指摘するのはフォロワーの立場ではなかなか難しいものです。その場合、リーダーが自分の視野を広げ、より良い代案を見つけられるような問いかけをしてみましょう。
■問いかけの例
・(ある状況に対して)○○さん(リーダー)と違う見方の人はいませんか?
・(ある問題に対して)別の視点からのアプローチがあればそれも聞かせてください
また、非協力的な第三者からの意見に対してどう対応したらよいか、リーダーの指示を仰ぐような形で質問してみると、下手に対立することなく間接的に問題点を指摘することができます。
■問いかけの例
×これまでの方針と矛盾していると思います
〇これまでの組織の方針と矛盾しているのでは?という利害関係者からの批判に対して、どう反論したらよいでしょうか?
×この予算じゃ絶対通らないですよ
〇なぜこのような予算申請をするのか、経理部門も納得がいくような解釈はありますか?
(3)「I(アイ)メッセージ」で伝える
リーダーに限らず、誰かにフィードバックをするときは、相手の行動について批判するより、その行動によって自分がどう感じたかを伝える方が、相手に「間違いを指摘されたくない」という自己防衛心理を抱かせることなく、効果的に伝えることができます。
つまり、「自分」を主語にして話し、「相手」を傷つけるような言い方を避ける「I(アイ)メッセージ」のスキルを活用することがポイントです。
■I(アイ)メッセージによる伝え方の例
×「あなたの方針では悪影響が出ます」
〇「私の調査によれば、この方針ではなんらかの悪影響が出ます」
×「情報を隠蔽なさるとは、あなたは不誠実だ」
〇「私は正直さを重んじます。したがって、私たちが持っている情報はただちに公表すべきだと思います」
(4)すぐに受け入れられなくても粘り強く交渉する
フォロワーが勇気を出してフィードバックしたとしても、リーダーがそれを受け入れ、すぐ変化を起こすとは限りません。賛同する部分はあったとしても、今は一度決めた方針を変えるべきではないと判断する場合もあるからです。そもそも誰かの意見に簡単に振り回されてしまうのでは、リーダーとしての役割を果たすことはできません。
しかし、大抵のリーダーは優れた洞察力を持っています。フォロワーが何かにこだわっていたら、ずっと無視はしないはずです。しばらくしてから、リーダーの方からその問題について検討していたことを率直に打ち明けてくる可能性も大いにあります。
その可能性を残しておくためには、リーダーからの拒絶にあってもその場で即決せず、自分たちの見解や提案を手短に伝え、とにかく一度考えてもらうよう頼んでみることが大切です。フォロワーから批判され反射的に断ってしまった、という場合でも、一旦リーダーに判断をゆだねることで、リーダー自身がフォロワーの提案を客観的に考えられるようになります。
リーダーが一度実行すると決断し、実施段階に入った方針や施策は、全面的に支援しなくてはなりません。もちろん、リーダーのプランに改善点を見つけた場合は積極的に提言するべきですが、リーダーが大局観に立って判断し、実行に移したことを妨害する権利はフォロワーにはありません。自分の考えと違っていても、成功に向けてリーダーを徹底的にサポートするのが、良きフォロワーとしての務めです。
しかし、リーダーの方針が自分のポリシーと相反する場合、迷ってしまうかもしれません。そんな時に参考にしていただきたいのが、三菱の四代目社長である岩崎小彌太の言葉です。
1941年12月8日、日本の真珠湾攻撃により太平洋戦争が開始した2日後、小彌太は開戦や三菱としての立場などについて、こう述べています。
「我等は平素においては国民の一員として、あるいは政治外交の問題に種々の意見を立て主張を明らかにしたことがなくはないけれども、事すでに今日に至っては、国是の向う所、昭々としてあきらかである......」
これまで多くの英米人と提携して事業を行ってきた小彌太の中には、様々な葛藤があったに違いありません。それでも小彌太は、いったん戦争が始まったら、国家を支えるフォロワーの一人として、課せられた責務の遂行に全力を尽くすという立場を明確にしました。
それと同時に、小彌太はこうも述べています。
「他日平和克復の日が来たならば、彼等は過去において忠実なる好伴侶であったように、将来においてまた忠実なる盟友でありえよう。かくて両者が相提携して再び世界の平和、人類の福祉に裨補(ひほ;助けおぎなうこと)する機会が到来して欲しい」
開戦2日目に、公に対して上記のような英米に対する配慮を、冷静に、かつ臆することなく語った小彌太。潔く国家へ貢献することを選びつつも、自身の信念を捨て去ることはなかった小彌太の行動は、誇り高きフォロワーの姿として参考にしていただけるのではないでしょうか。
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