ハラスメント対策・防止の3つの視点~職場の事例から考える

近年、テレビや新聞、インターネットなどのさまざまなメディアで、もはや見かけない日はない「ハラスメント」という言葉。「パタハラ」「ケアハラ」など、ハラスメントの種類を指す新しい言葉もどんどん増えています。

ハラスメントとは何か、どのような言動がハラスメントにあたるのか、ハラスメントをしない・受けないために、どのようなことに気を付けたらいいのか、また周りでハラスメントを見かけたときにはどうしたらいいのかなど、職場における具体的な事例をまじえて本記事では解説します。

本記事では主に企業組織などの職場で起こるハラスメントに焦点をあてています

はじめに ~ハラスメントとは?

「ハラスメント」とは、意識的・無意識的に特定・不特定多数を問わず不快な想いをさせる、苦痛を与える、居心地の悪さを感じさせる行為のことを指します。

ハラスメント行為は、嫌がらせ、いじめ、人権侵害に関与する恐れがあります。また、組織にとってのリスクとしては、従業員のメンタル不調、モチベーション低下、最悪なケースでは退職や裁判沙汰、自殺につながる恐れがあります。

ハラスメントの種類

(1)セクハラ、パワハラの定義と法規制

ほとんどの人が一度は聞いたことがあるのが「セクハラ(セクシュアルハラスメント)」「パワハラ(パワーハラスメント)」でしょう。まずはこの2つについて、定義や具体例、法規制などを確認していきます。

セクハラ(セクシュアルハラスメント)

職場におけるセクハラとは、「相手方の意に反する性的な言動」で労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、労働者の就業環境を悪化させ、能力の発揮を阻害する言動のことを指します。また、組織にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に悪影響を与えます。

セクハラというと、男性が女性に対して行うイメージを持ちがちですが、女性から男性、および同性から同性であってもセクハラの対象となります。

▼セクハラとなる言動の例
  • 不必要に髪や肩、胸、腰など身体を触る
  • 交際関係や性的な事実関係を尋ねる
  • パソコンのスクリーンセーバーにヌード写真を使う
  • 「男なんだから、そこに置いてある荷物全部運んでおいて」「女性はみんな子供を産むべき」など、固定的な性役割を押し付ける
  • 「言うことを聞けば昇給させてやる」などの職務上の地位を利用して性的関係を強要する

パワハラ(パワーハラスメント)

職場におけるパワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為のことを指します。

上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれます。

▼パワハラとなる言動の例
  • 目標を達成できなかった社員を、2時間立たせたままにする
  • フロア全体に聞こえるくらい大きな声で怒鳴りつける
  • 特定の社員に対してだけ、仕事の指示を出さなかったり、ミーティングに呼ばなかったりする
  • 個人的な確執を背景に、様々な手を使って部下の昇格、昇進を妨害する
  • 管理職であるにも関わらず、新人と同じレベルの仕事しか与えない
  • 「キミみたいな人間と結婚しようと思った奥さんの顔が見たいよ」など、家族を侮辱する発言

法律によるセクハラ、パワハラ対策の義務化

セクハラについては、男女雇用機会均等法により、以前から事業主に対策が義務付けられています(※1)。また、パワハラについても、2019年5月29日、改正労働施策総合推進法が参院本会議で可決、成立し、企業はパワハラについての防止策を義務づけられることになりました。こちらの、いわゆる「パワハラ防止法」は、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行されます(※2)。

それほどに、発生件数が多く悩む人も多い、あらゆるビジネスパーソンにとって身近かつ根が深い問題といえるでしょう。

※1参考:厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案の概要」

https://www.mhlw.go.jp/content/000486033.pdf(最終アクセス2020/8/3)

※2参考:厚生労働省 東京労働局 「パワーハラスメント対策等」

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/00330.html(最終アクセス2020/8/3)

(2)その他のハラスメント

以下に、セクハラ、パワハラ以外のハラスメントの種類の一部とその例を記載します。インターネットなどで検索すると、もっと多くのハラスメントが出てきて、ハラスメント対策についてまじめに考えている方であればあるほど、「こんなに覚えきれない......もはや何をしてもハラスメントと言われてしまうのではないだろうか......」と不安を覚えるかもしれません。

しかし、ハラスメントの種類を覚えて「こうだったらセクハラで、こうだったらモラハラで......」と、厳密に定義することは、本質的な解決につながりません。また、実際のハラスメント行為は、複数のハラスメントの種類に該当することもよくあります。

重要なのは、ハラスメントをしないためには「相手が不快に感じる可能性がある言動」として、またハラスメントを受けないためには「相手からされて不快に感じた場合に、我慢せず訴えてよい行動」として、各ハラスメントの具体例を認識しておくことです。

モラハラ(モラルハラスメント)

モラハラとは、身体的な苦痛ではなく、精神的な苦痛を与える嫌がらせ全般を指します。モラハラをする人としては、無視や人格を傷つけるような言葉を使うなど、巧みに人の心を傷つける傾向が強いと言われています。加害者は自覚なしに、ハラスメント行為をおこなっていることが多いです。

▼モラハラとなる言動の例
  • 相手の意見にことごとく反論する、または拒絶する、無視する
  • わざと実行不可能な仕事を依頼する
  • 劣等感を植え付けさせ、相手の自信を失わせる発言をする

アルハラ(アルコールハラスメント)

アルハラとは、アルコールに関する嫌がらせ行為のことを指します。職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にアルコールの多量摂取の強要や飲めない人への配慮を欠く行為を指します。また酔ったうえでの迷惑行為も含まれます。

▼アルハラとなる言動の例
  • 心理的な圧力をかけ、飲まざるをえない状況に追い込む(断る余地を与えない)
  • 場を盛り上げるために一息で酒を飲み干すことや早飲みすることを指示する
  • 宴会に酒類以外の飲み物を用意しない(飲めない人への配慮をしない)

女性に酌を促す行為は、セクハラとしてもNGとされることが増えてきている

アカハラ(アカデミックハラスメント)

アカハラとは、大学などの学内で、教職員が権力をもとに学生や部下の教員に対して行う嫌がらせ行為のことを指します。パワハラの一類型ととらえることができます。

▼アカハラとなる言動の例
  • 教員による学生への正当な理由のない人格否定や多数の面前での批判
  • 不当に多い課題を不可能なスケジュールで提出するように指示する

マタハラ(マタニティハラスメント)

マタハラとは、妊娠、出産、育児などを理由とする解雇、雇い止め、降格、減給などの不利益な取り扱いのことを指します。妊娠中の人材に対する配慮を示さず、肉体的または精神的に苦痛を与えることもマタハラに該当します。

▼マタハラとなる言動の例
  • 妊娠した旨を伝えた女性社員に「退職してもらう」、「(契約スタッフの場合)次の契約更新はしない」と言う
  • 正社員として働いている女性に、妊娠をきっかけに「パートになれ」と言う
  • 心無い言葉を投げかける(「妊娠していると早く帰れていいなぁ」「いい迷惑だよ」と言う)

パタハラ(パタニティハラスメント)

マタハラが妊娠、出産、育児をしている女性社員へのハラスメントを主に指していることに対し、パタハラとは、育児をしている男性社員へのハラスメントのことを指します。

▼パタハラとなる言動の例
  • 男性社員の育児休暇取得を否定するような発言をする
  • 「男は仕事、女は家事」という価値観を押し付ける

ケアハラ(ケアハラスメント)

ケアハラとは、働きながら介護を行う労働者に対して、制度利用(介護休業や介護時短制度等)を不当に妨害する行為のことを指します。また、介護を行うことを理由に人事評価を下げる行為(パートへの降格や解雇)もケアハラです。

▼ケアハラとなる言動の例
  • 介護を理由に降格処分を下す
  • 介護のために定時で帰る社員に対して「定時で帰れていいよな」と発言する

カスハラ(カスタマーハラスメント)

カスハラとは、カスタマー(顧客・取引先)から受ける嫌がらせや、就業環境を害するような過度なクレームのことを指します。自身の利益のためなど不当な理由で、サービス外のことを執拗に要求するタイプや、「自分が正しい」と思い込み、故意ではなく結果的にカスハラ行為に該当してしまうタイプも存在します。

▼カスハラとなる言動の例
  • 店員の胸ぐらをつかんだり、暴言・大声を出すといった暴力的な威嚇行為を行う
  • 「○○ができなければ慰謝料を払え」など、過剰な見返りや金品を要求する
  • 「本部の人間を呼べ」「お前は話にならない」などと言い、店舗に居座る
  • 「名前を覚えたからな」「SNSで拡散するぞ」など、脅迫まがいの言動を行う

ハラスメントが起こってしまう原因

ハラスメントは、個人の要因と、組織風土による要因が複合的に関係して生まれると考えられています。

(1)個人の要因

ハラスメントがなくならない理由には、してはいけないことを正しく知らない「無知」と、自分の行為がハラスメントに該当することに気がつかない「無自覚」があります。

また一方で、ハラスメントに関する「無知」は、過度にハラスメントを気にしすぎて、相手との適切・必要なコミュニケーションをとらない「過敏」にもつながってしまいます。職場において、管理職がハラスメントを訴えられることを恐れて部下に適切な関与をしなくなってしまうことなどは、まさに「過敏」の例といえるでしょう。

(2)組織風土による要因

日常的に強いストレスがある

▼日常的な強いストレスの例
  • 会社から高い必達目標が与えられていて、その達成がかなり厳しい状況にある
  • ミスの許されない業務を担う中で、それに見合う従業員のスキルが足りていない
  • 急激な作業量の増加と人手不足により、未習熟者の成果の底上げが求められている

閉鎖的な職場環境

▼閉鎖的な職場環境の例
  • 事業所の所在地が本社から離れていて、実質的にその所長が全ての権限を握っている
  • 組織横断的な情報経路がほとんどなく、各職場の実情が本社や他の部署に伝わらない
  • 業務委託先やフランチャイジーなど、本社の管轄外として扱われ、見て見ぬふりをされる

これら個人の要因、組織の要因を克服するために重要なのは以下の3点です。

  • ハラスメントに関する正しい知識を身につけること
  • 「自分は大丈夫」と思わず、批判的に自身や周りの状況を捉えること
  • 組織全体の特性や風土を少しずつ変える努力をすること

ハラスメントの防止と対策①  ~加害者にならないために

ここからは、「加害者にならないために」「被害者にならないために」「第三者として見かけたらどうすればよいか」という3つの視点から、対策を解説していきます。まずは、自身が加害者にならないためにどうすればよいかを考えていきましょう。

(1)自分の常識と相手の常識は異なることを強く認識する

「自分が若い頃は普通だったこと」は、今は普通ではないかもしれない

企業内研修において近年トレンドとなっているテーマのひとつに、管理職対象のハラスメント防止研修があります。その研修の場で、必ず受講者から聞こえてくるのが「こんなちょっとした行動がハラスメントになるなんて、若い頃は普通だったのに!時代は変わったなぁ」「昔はよかったなぁ、変な気を使わなくて済んだから」という声です。

ハラスメント如何にかかわらず、自身の経験則からは考えられないことに対して、人が戸惑いをおぼえるのは、ごく自然なことといえます。

しかしながら、研修受講者の声にもある通り、時代は変わった(正確には変わり続けている)のです。組織の構成員がみな画一的な価値観をもつことが良しとされた時代は終わりました。世代間の価値観の違いのみならず、ジェンダーや国籍、宗教その他、これまでに過ごしてきた人生、育った環境によって、何を正しいと思うか、また何を嬉しいと感じ何を不快に感じるかは千差万別です。そしてそれらの多様な価値観・考え方のなかで、絶対的に正しいものはありません。

まずはそのことを強く認識し、「自分にとっての当たり前が相手にとって当たり前とは限らない」「自分の考え=正解、ではない」という事実を受け止めることが、加害者となってしまうリスクを抑えるための第一歩です。この事実を手帳の隅などよく目につくところに書き留めておくなど、自分の意識に浸透させるための工夫をすることもおすすめです。

「だろう」判断から「かもしれない」判断へ

ハラスメントに限らないことですが、リスク管理が得意でない人の考え方の特徴に、何事も「だろう」で考えてしまう(本記事では『「だろう」判断』と呼びます)、というものがあります。

▼セルフチェック!次のような言葉をよく口にしていませんか?
  • 「わざわざ説明しなくても(相手は)わかってくれているだろう」
  • 「これぐらいのことは許されるだろう」
  • 「後でフォローすればまぁどうにかなるだろう」
  • 「ちょっとくらい適当でもまぁ大丈夫だろう」

「だろう」判断は、ポジティブシンキングといえなくもないですが、ハラスメント防止の観点からは、この考え方はとてもリスクが高いものです。

セルフチェックにあるような言葉をよく発しているなと感じた方は、「かもしれない」で考える(本記事では『「かもしれない」判断』と呼びます)よう心掛けましょう。「かもしれない」判断をすることで、相手との認識の相違を防ぐことができます。

▼「かもしれない」判断の例
  • 「わかってくれているだろう」⇒「わかってくれていないかもしれない(⇒改めて確認しよう)」
  • 「許されるだろう」⇒「許されないかもしれない(⇒あらかじめ相手に承諾を得ておこう)」

すなわち、ハラスメントにありがちな、「加害者側は、相手も合意のうえだと思っていた」「加害者側は、相手を傷つけるつもりはなかった」といった事態を防ぐことができます。「かもしれない」判断も、手帳などに書き留めておき自分の意識に浸透させることをおすすめします。

(2)相手に合わせたコミュニケーションをとる ~「悪平等」にしない

ハラスメントか否かの判断には、もちろん一定の客観的な判断基準も存在するものの、「相手がどう感じたか」が非常に重要なカギとなります。つまり、同じことに対してハラスメントと受け取る人と受け取らない人がいるということです。

組織で働くうえで「平等」という言葉は頻出しますが、「平等」と「公平」は異なります。たとえば、体の大きさや筋肉量を無視して全員同じ重さの荷物を運ぶなど、ひとりひとりの特性を無視して同じ扱いをすることは、「悪平等」であって「公平」ではありません。同じように、仕事の割り振り方やものごとの伝え方についても、相手を注意深く観察し、相手に合わせて変えることが必要です。

(3)相手を「指導」するときの注意点

パワハラは、上司・部下間に起こるもののみを指すわけではないとはいえ、やはり件数として多数を占めるのは、上司から部下に対するものです。なかでも、意識的にしろ無意識的にしろ、業務上必要な「指導」がエスカレートして「パワハラ」になってしまった、という事例は多くみられます。

パワハラと指導には、明確な境界線がないうえ、行為者がどういう意図で言ったのかは、パワハラの判定には関係ありません。そこで、上司側が、パワハラと指導の違いを正しく認識することが重要です。

▼パワハラと指導の違いとは ~4つの意識

パワハラでない指導を実現するには、育成・改善・目的・配慮の4つのポイントを意識する

指導を行う際には、上記も踏まえながら、以下の3つのポイントに留意しましょう。

  • 目的(相手のどのような成長を願って、どのような考え方や行動に対して指導するのか)を明確にする
  • 一方的に話すのではなく、相手に気づいてもらう(相手にも発言を促し、なるべく改善点は相手の口から出てくるように促す)
  • 相手の話もきき、お互いの信頼関係を増すことを心がけ、指導する側も努力する

また、上司は「上司である」というただそれだけで、自分の言動は自分で想像している以上に部下にとって影響力が高いということも認識しておきましょう。

ハラスメントの防止と対策 ② ~被害者にならないために

ハラスメントの被害者は、当然、好き好んでハラスメントを受けているはずはありません。被害者にならないためにできることは限られています。そのため、もしも被害を受けてしまった場合に、自分自身を責める必要は一切ありません

とはいえ、被害を未然防止するためにできることが少しでもあるなら知りたい、と考えるのも自然な心情です。以下に、できうる予防策について解説します。

(1)うまく断る方法を知っておく

相手から「この人は何をしても文句を言わなさそう」「この人は自分より気が弱そう」「この人にはつけ入るスキがある」と思われると、ハラスメントを受ける対象となってしまうかもしれません。

そこで、上司や取引先など「No」を伝えにくい相手に対してハッキリと「No」を言うことは難しくても、相手の気分を害さずに柔らかく断るための考え方と方法を知っておきましょう。

"アサーティブ"という考え方

人の考え方・行動は大きく3つのパターンに分かれると言われます。

非主張的:自分の考えや気持ちを抑え、相手に言わないこと

相手への配慮とも考えられますが、相手に対しても自分自身に対しても誠実ではありません。相手は、言いなりになって欲しいと思っているとは限りません。また、自分自身には我慢・忍耐・服従という大きなストレスをかけています。

攻撃的:自分の考えや気持ちを第一に考え、相手に主張すること

自分の思い通りになるという意味で良い方法に思えます。しかし、相手を自分に適応させる(自分の価値観を押し付ける)やり方ですので、相手は納得しなかったり、反発することもあります。このような考え方や行動を続けていると、次第に周囲から避けられるようになります。

アサーティブ:自分と相手双方の考え・気持ちを同等に扱い、正直、素直に相手に伝えること

どちらが良い・悪いということは決め付けず、相手の状況、背景や心情に思いを巡らせます。その上で、自分の考えや気持ちを過度に抑え込まず、正直に伝えることです。

伝えることで合意できることもあるでしょうし、意見対立があるかもしれません。しかし双方が「歩み寄り」、より良い方向に向かって行動を起こしていくためには、まず正直、素直に伝えることが第一歩となります。

アサーティブ"assertive":[形容詞]自分の意見をはっきり述べる,積極的に主張する

非主張的、攻撃的なパターンは、とる言動は異なりますが、どちらも結果として人間関係を壊してしまう可能性があります。自他ともに尊重したうえで、正直、素直に自分の考えを伝えるアサーティブこそ、長期的に健全な人間関係を保つためのベストな方法といえます。

アサーティブ・コミュニケーションの手順

アサーティブな考えにもとづき、無理なこと、嫌なことを我慢せず相手に伝えるために、以下の手順が有効です。

アサーティブ・コミュニケーションの4つの手順は、「状況を客観的に伝える」、「相手の話を受け止める。相手の言葉に反応を示す」、「自分の考えを伝える」、「論点を確認し、最良と思われる解決策を導き出す」です。

また、外見上の身だしなみを整えることや、ハキハキと大きな声で受け答えをすることも、気弱に見せないために有効な手段のひとつです。

「言いなりになってくれる相手」という認識を相手に持たれないよう、少しずつ、できることからチャレンジしてみましょう。

(2)いざというときの相談窓口を確認しておく

そうはいうものの、職場環境や相手の特性によっては、自分の努力ではハラスメントを防ぎようがないこともあります。むしろそちらのほうが大半でしょう。

そのような場合には、深刻化・常習化する前に、早期にハラスメントの芽を摘み取ることが重要になってきます。

多くの企業・組織や自治体などには、「ハラスメント相談窓口」が設置されています。そこに所属する相談員は、加害者に悟られぬように、被害者の状況や意思を確認しながら、一緒に対策に取り組んでくれます。自分がハラスメントを受けてしまった場合、誰にどのように相談したらよいのかをあらかじめ確認しておき、いざというときに素早い行動がとれるようにしておきましょう。

(3)「ハラスメントかも?」と思ったら記録をつける

相談窓口その他、第三者に相談し、その後の対応を考える際には、事実が重要になります。「これはハラスメントかもしれない」と感じることがあれば、日時や場所、自分と相手の状況、相手の言動を記録しておきましょう。

ハラスメントの防止と対策 ③ ~周りでハラスメントを見かけたら

続いて、自分が加害者・被害者というわけではないけれど、第三者として見かけてしまったらどうすればいいかについて解説していきます。

面と向かって加害者に対して「やめたほうがいいんじゃないですか」と言える人は多くないでしょう。そんなことをしようものなら、次の被害者が自分になる可能性があると思うと、ためらってしまうのは人として自然なことです。では、どのような対応が望ましいのでしょうか。

(1)絶対にしてはいけないこと

加害者への同調

明白に「否定」はできなくても、加害者の言動に同意したり笑ったりといった、加勢するような対応を控えることはできるはずです。それだけでも、被害者の心が幾分救われることもあります。

被害者側を責める

被害者から相談を受けた場合に、「それぐらい我慢できるのでは?」「あなたにも問題があるのでは?」「やめてくださいと言えば?」などと相手を否定するような言葉を言ってはなりません。その言葉が被害者の傷をえぐり、被害者が自身を責めることにつながる可能性があります。

被害者の意思を確認せずに通報

第三者としては良かれと思って相談窓口に通報したとしても、被害者側がそれを望まない場合もあります。また、第三者として相談窓口に伝えるとしても、どのような伝え方をするかによってその後の動きが左右されかねないため、必ず本人がどのように考えているのか確認をしてからにしましょう。

(2)するといいこと

そっと話しかける

被害者にそっと話しかけましょう。話題はハラスメントに全く関係のないことで構いません。また、加害者がいなくなってからで構いません。被害者に孤独を感じさせないこと、理解者がいると感じてもらうことがポイントです。

話をとにかく聴く

被害者が相談してきたら、真摯に受け止めましょう。相手は藁にもすがる思いで相談してきているかもしれません。話を途中で遮ったり、求められていないのにアドバイスしたりすることは避け、相手の話をまずは受け止めましょう。

相手の意向を確認する

相談しに来た被害者は加害者にどうしてほしいのか、相談相手である自分に何をしてほしいかを確認しましょう。良かれと思ってしたことでも、相手の考えと違うことがあるため、相手の意思を最大限に尊重しましょう。

なるべく早く対応する

被害者から何か具体的行動を起こしてほしいと言われたときは、極力早く対応しましょう。せっかく相談したのに、その後、何のアクションも取らなかったり、相手に連絡しないということでは、相手に不信感を与えたり、傷つけたりします。

記録をつける

加害者からの暴言や行為の具体的な状況をヒアリングしてまとめたり、被害を受けた事実を相手に記録としてまとめさせたりします(「いつ、どこで、誰から、どのような言動(行動)を受けたか、その場にいた人は、そのときどう対応したか、どう感じたか、体調の変化は」など、なるべく5W1Hで漏れなく記録する)。

最後に ~組織的に取り組むことが重要

本記事では、組織で働く一個人が、「加害者にならないため」「被害者にならないため」、そして「周囲で見かけたとき」にどうしたらいいかを述べてきました。しかし個人の意識と同様に重要なのは、組織全体で取り組むことです。

(1)ハラスメントに関する正しい知識のインプット

ハラスメントは、誰かひとりでも誤った理解している人がいると、そのことが組織全体の大きなリスクとなります。定期的に従業員教育を行い、正しい知識を全員が持ち、常に全員がハラスメントリスクに対するアンテナを張っている状態をつくることがポイントです。

(2)シグナルを見逃さない風土をつくる

遅刻・早退・欠勤など働く意欲を失っている兆候はないか、顔色や服装に変化はないかなど、従業員の変調は、管理職や人事部が適切に把握しなければなりません。管理職や人事自身はもちろんのこと、各メンバー同士でお互いの変化に気づきあえる風土を作りましょう。

(3)風通しのよい職場をつくる

組織全体に、上下関係や部署の隔てなどを気にせずに従業員同士が意思疎通できる風土があれば、コミュニケーションの頻度が増えて「だろう」判断が減り、ハラスメントが起こりにくくなるといえます。

組織においては、被害者はもちろん、加害者のことも、ひとりにしてはいけません。孤独な状況、ストレスの多い状況が、ハラスメントを引き起こし、助長させてしまいます。経営者や人事、管理職には、ハラスメント防止を組織的で恒常的な取り組みにするための働きかけが求められています。

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