研修を語る
2024/07/ 1更新
コンプライアンス研修を語る
組織のコンプライアンスマニュアル作成に長年携わってきた弊社の企画開発担当がコンプライアンスの神髄を語ります!
コンプライアンスとは?コーポレートガバナンスや内部統制との違い
―近年、企業活動や自治体運営において「コンプライアンス」という言葉が当たり前のように使われるようになりました。世の中にだいぶ浸透したように感じますが、いかがでしょうか。
改めてコンプライアンスとは「法令遵守」のことですが、近年は社会が求めるコンプライアンスの定義が変わってきているように感じます。単に法令を守るだけではなく、社会に必要とされ、期待に応える存在になるために、自律的に自身の行動をマネジメントしていくことまでが、コンプライアンスの基本となりつつあります。
―とは言え、世間を騒がす不祥事発覚のニュースが相次ぐなど、組織のコンプライアンス体制を問われる事例は依然後を絶たない印象です。
そうですね。「表に出なければOK」という隠ぺい体質や、「組織のためにやったことであれば仕方ない」と処罰を甘くするなど、組織のルールを一番に考え、無意識に世間一般の常識と異なる判断軸を持ってしまった、というのはよくある話です。
ひとたび不祥事が発覚すると、今はネットニュースやSNSなどを通じてあっという間に拡散し、企業価値が著しく損なわれてしまう時代です。そうしたリスク対策も含めて、コンプライアンス教育の重要性がますます高まっていると言えます。
―合わせてコーポレートガバナンスや内部統制という言葉もよく聞きますが、コンプライアンスはどう違うのでしょうか。
コーポレートガバナンス(企業統治)とは、会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのことです。一方内部統制とは、会社や組織の業務におけるミス、エラー、不正、違法行為を防ぐためのルールやプロセスの整備・運用のことを言います。
どちらも企業の不正や不祥事を未然に防ぐための体制をつくるためのものですが、コーポレートガバナンスは株主などのステークホルダーが経営者を監視するための仕組みであるのに対し、内部統制は経営者が従業員をチェックするための制度となります。そして、両者とも密接な関わりがあるのがコンプライアンスです。法令に則りコーポレートガバナンスや内部統制の仕組みをしっかりとつくることで、組織のコンプライアンス体制が一層強化されます。
コンプライアンスの神髄とは「通常業務に法のチェックを取り込む」こと
―これまで関わられた組織のコンプライアンス見直しの具体例を教えていただけますか。
私は大手銀行の合併の時に、大量なコンプライアンスマニュアルの作成に関与しました。しかし日本ではコンプライアンスが一般化したのは最近のことで、当時経営者向けのコンプライアンスマニュアルはありませんでした。逆に、担当者向き・管理者向きのマニュアルがたくさんありすぎました。
コンプライアンスがまずいと言われると、分厚いマニュアルをつくったり、チェック項目を増やす方向に走ったりしがちですが、それは逆効果です。社内のチェックが、法に準じた検査項目と一致していればいいのですが、往々にしてズレがあるものです。昔は「検査のための事務処理」を行うためのチェックリストがありましたが、要は隠ぺい工作ですよね。ひどい場合には、お客さまのためではなく、組織の内向きの処理になってきますから、CSに反してしまう恐れもあります。お客さまを犠牲にした、検査のためのコンプライアンスとなっては本末転倒なのですが、それをわかってない人がかつてはたくさんいました。
そこで、合併後のマニュアルはコンプライアンスの重要事項だけに絞り、できるだけシンプルにすることを心がけました。極端なことを言えば、コンプライアンスマニュアルが無くてもいい場合もあります。ある事務処理をするための書類があり、その中に法的に満たさなければならないすべてのチェック項目が入ってさえすれば、それがそのままコンプライアンスマニュアルになります。コンプライアンス担当者は、書類の中にあるチェック表の項目がきちんと埋まっているかどうかを、業務の中で動態観察していけばいいわけです。
―なるほど。難しくて大変そうというコンプライアンスのイメージが変わりますね!
監査が入る直前になって慌てるのではなく、このように通常業務の中に法を取り込んで常にチェックできる体制にすることが、コンプライアンスの真髄だと思います。
コンプライアンスの前に業務フローを見直す
―通常業務の中で行えるようにするためには、重要ではないものをいかに「捨てるか」ということもポイントになりそうですね。
そうですね。業務フローがシンプルなほど、いつもと何か違うことが起きてもすぐに気づきやすくなります。
そこで、コンプライアンスの前提として大事になってくるのが、仕事自体のフローを見直して工程分析をし、その工程にかかる手数をできるだけ減らしておくことです。現状のフローのままコンプライアンスを強化しようとして、チェック項目をたくさん設けるとか、チェックする人をさらに増やすようなことは、絶対にしてはなりません。人が多すぎると逆にミスが起きます。逆に人を減らすぐらいの見直しが必要です。
企業や自治体の中でコンプライアンスの問題と考えられるものについても、実は単純に仕事の進め方や段取りが悪いだけということがよくあります。たとえば役所関係などでは、基本的な仕事は法令に基づいて大枠が決まっています。だからコンプライアンスの問題といえば、事務処理が円滑かつ適正に行なわれているかどうか、正確で迅速にされているか、それだけのことなんですよね。
コンプライアンス違反を「自分事」として考える研修
―インソースのコンプライアンス研修の特徴について教えてください。
コンプライアンスに関する一般的な知識を得るのみでなく、「自分事」として考えていただけることが最大の特徴です。コンプライアンスに取り組むうえでまず必要なのは、「世間の常識」に対する「自社の常識」、または「自分の常識」のズレを認識し、コンプライアンス違反に対する危機感を持つことです。世間を騒がす不祥事は決して他人事ではなく、自分の属する組織や身の回りに起こりうると真剣に受け止めていただくことが研修のねらいとなります。
▼【ラインナップ】コンプライアンス研修
講義では、コンプライアンス違反の具体的な事例を基に、違反が起きた原因や背景は何か、組織にどのような影響を与えるのか、などを考えたうえで、自部署において同じことを起こさないための対策や行動指針を立てるワークに取り組んでいただきます。コンプライアンスという言葉だけがひとり歩きしがちですが、分かりやすい事例で「自分事」として考えることで「ぼやけていた部分がすっきりした」との声を多くのお客さまからいただいています。
▼(半日研修)コンプライアンス研修~個人情報保護、情報セキュリティ、SNSのリスクを知る編
―コンプライアンス違反の事例は、お客さまの組織で実際に起きたものを取り扱うこともできますか。
もちろんです。講師派遣型の研修では、テキスト作成前にヒアリングをさせていただいたうえで、ケーススタディやワークに盛り込むことが可能です。現状特に問題はないが、コンプライアンス教育の重要性を感じている組織であれば、一般的なケースで考えていただく公開講座の受講もおすすめです。
また、教育の実施とともに自組織のコンプライアンス体制を見直したい、というご相談もよくいただきます。その場合は、お客さまの現状のコンプライアンス体制の問題について、以下3つの観点からチェックを行います。
1.コンプライアンスマニュアルがあるかどうか。
2.外部に出す文書手続きのフローに違和感や形骸化してしまっている点がないか。
3.2で洗い出した点について、そうなってしまった原因は何か
研修を行う前に、以上の3点に関して、お客さまに「事前課題」を出して考えていただき、問題点を具体的に把握したうえで、適正なコンプライアンスを学んでいただいています。
階層別のコンプライアンス研修が充実、全従業員向けのプランも
―コンプライアンス研修と一言で言っても、若手層と管理職では課題感も違うと思います。それぞれどのようなプログラムがおすすめでしょうか。
若手向けのプログラムとしては、社会で働くうえで不可欠なモラルと、組織人としての適切な行動を再確認するプログラムがあります。
▼(若手・中堅向け)モラル&コンプライアンス研修~組織人として判断力を養う(半日間)
仕事に慣れてくると「これぐらいなら問題ないだろう」と自分の感覚で無意識に判断してしまいがちです。こちらの研修は、自身のモラルが組織への信頼や評価に直結することを改めて認識し、コンプライアンス強化に率先して取り組むマインドを醸成することを目的としています。
また、入社したての新人でも、コンプライアンス違反は「知らなかった」では済まされません。新社会人・新入社員を対象とした、コンプライアンスに関する基本的な知識と適切な対処法を学ぶプログラムの受講がおすすめです。
▼新人向けコンプライアンス研修~社会人としての基本的な知識と対処法を身につける(半日間)
一方、管理職には、組織ぐるみの不祥事を未然に防ぐための取り組みについて考えていただくプログラムがおすすめです。チェックシートで「自組織のコンプライアンス体質をチェックする」ワークを行い、自組織に何が不足しているのかを客観的に理解することで、納得感を持ちながらコンプライアンスに関する学びを深めることができます。
▼コンプライアンス研修~不祥事を防ぐ編(半日間)
―組織ぐるみの不祥事を防ぐには、経営層の関与も欠かせないと思います。
その通りです。長年の悪しき慣習を断ち切るには、経営トップの強い推進力が欠かせません。上級管理職の皆さまには、コーポレートガバナンスや内部統制の知識も踏まえた高度なコンプライアンスの取り組みについて学ぶことで、組織価値の保護と持続可能なビジネスの成長に寄与する経営の実現につなげていただければと思います。
▼コーポレートガバナンスと内部統制研修(1日間)
また、階層別に単体で行うだけでなく、全社員に対するコンプライアンス教育を段階的に2年間かけて強化していくプランもあります。
▼2年間で全社員のコンプライアンス意識を刷新するプラン
―社会的な意識の高まりを受け、全社的な教育を一斉に行いたいという組織にはこのプランがおすすめですね。
社会全体の幸福の実現に向け、一人ひとりのコンプライアンス意識を継続的に高める
―それでは、最後にまとめをお願いします。
これまでコンプライアンスに対して「守らなければならないもの」「つまらないもの」などとネガティブな印象を持つ人も多かったかもしれません。しかし、本来コンプライアンスは、望ましい社会、望ましい職場を実現するための前向きな取り組みであるべきです。
近年ではSDGsや人権デューデリジェンスなど、持続可能な世界や社会全体の幸福の実現に向けた取り組みが、企業規模に関わらずあらゆる組織に求められています。企業が負うべき社会的責任が拡大するなか、組織のコミットメントを着実に実践していくためには、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識を継続的に高める必要があります。
仕事が良い方向に変わり、企業価値の向上にもつながるコンプライアンスの推進に、ぜひ全社を挙げて取り組んでいただきたいです。