2021年1月29日
多様な働き方の実現に向けた労働関連法の改正が進む中、2021年から始まる障害者法定雇用率の引き上げと高年齢者就業確保措置の人事実務のポイントについて、社会保険労務士の池田優子氏に解説してもらった。
池田優子 社会保険労務士(汐留社会保険労務士法人)
障害者や高齢者の雇用と就業の促進は、現在、国が取り組みを進めている「働き方改革」の重要なテーマとされています。国は、障害者が希望や能力、適性を十分に活かし、障害の特性等に応じて活躍することが普通の社会、障害者とともに働くことが当たり前の社会を目指しています。また、65歳以降の高齢者の就業の促進に向けて、継続雇用年齢等の引き上げを進めていくための環境整備も進めています。本稿では、2021年から始まる障害者法定雇用率の引き上げと高年齢者就業確保措置のポイントについて解説します。
障害者雇用率制度
障害者についても、一般労働者と同じ水準で労働者となり得る機会を確保するため、障害者雇用促進法に、常用労働者の数に対する障害者雇用数の割合「障害者法定雇用率」を設定し、事業主に達成義務を課すことが定められています。雇用と就業は、障害者の自立・社会参加のための重要な柱であり、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。
障害者法定雇用率の引き上げと対象となる事業主の拡大
障害者法定雇用率の引き上げは、当初は2021年1月の予定でしたが、コロナウイルスによる企業への影響等を鑑みて、2カ月後ろ倒しされ、2021年3月になりました。
2021年3月1日より0.1%引き上げられますので、民間企業の法定雇用率は、現行の2.2%から2.3%へ上がることになります。
また、それに伴い、対象となる事業主の範囲は、従業員数45.5人から43.5人に変更となりますので、従業員数が43.5人以上の事業主は障害者を1人以上雇用しなければなりません。これまで障害者を雇用する義務がなかった従業員数が43.5人以上45.5人未満の事業主は、特に気をつける必要があります。
従業員数が43.5人以上45.5人未満は注意が必要
(出所)厚生労働省「障害者の法定雇用率の引き上げについて」
障害者雇用納付金制度
障害者を雇用するためには、作業設備の改善や職場環境の整備等が必要となり、一定の経済負担を伴うことが多いです。障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平性を図るため、「障害者雇用納付金制度」が設けられています。
法定雇用率が未達成の企業のうち、常用労働者数が100人を超える企業から、障害者雇用納付金(不足1人当たり月額5万円)を徴収し、この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対し、調整金・奨励金を支給するものです。
また、この度の法定雇用率の引き上げに伴い、算定方法にも注意が必要です。2020年度分の障害者雇用納付金申告書(申告期間:2021年4月1日から同年5月15日まで)については、2020年4月から2021年2月までは現行の2.2%、2021年3月分のみ引き上げ後の2.3%で算出します。
高年齢者就業確保措置の新設
少子高齢化が急速に進行し、日本は超高齢社会を迎えています。15歳から64歳の生産年齢人口が減少する中で、2025年には団塊の世代全員が75歳以上となり、3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となることが見込まれています。
働く意欲がある高年齢者がその能力を十分発揮して、活躍できる環境整備を図るために、高年齢者雇用安定法が改正され、高年齢者就業確保措置が新設されました。高年齢者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保等(フリーランスや有償ボランティアもある)について、事業主に努力義務を設けています(2021年4月1日施行)。
高年齢者就業確保措置の内容
現行の制度では、事業主に対して、65歳までの雇用機会を確保するため、高年齢者雇用確保措置として、次の3つ(①65歳まで定年引き上げ ②定年制の廃止 ③65歳までの継続雇用制度の導入)のうち、いずれかの措置を講ずることを義務付けています。また、制度の適用者は原則として「希望者全員」で、適用対象者の基準を定めることはできませんが、経過措置として、2012年度までに労使協定により制度適用対象者の基準を定めていた場合は、その基準を適用できる年齢を2025年4月までに段階的に引き上げることが可能となっています。
今回新設された高年齢者就業確保措置は、定年を70歳へ引き上げることや労働者を70歳まで必ず雇用しなければならないといったものではありません。労働者を60歳まで雇用していた事業主に対して、65歳までの雇用の確保(義務)に加え、65歳から70歳までの就業の「機会」を確保するため、次の①?⑤のいずれかの措置を講ずる努力を義務付けています。
①70歳までの定年引き上げ
②定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入【特殊関係事業主(子会社・関連会社等)に加えて、他の事業主によるものを含む】
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業 b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
④及び⑤の創業支援等措置(雇用以外の措置)を講ずる場合は、創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、労働者の過半数を代表する労働組合や労働者の過半数を代表する者等の同意を得る必要があります。なお、この計画については、ハローワークに届け出る必要はありません。
①~⑤の措置のうち、いずれの措置を選択するかについては労使間で十分協議を行い、自社のニーズに合った措置を講ずることが望ましいです。また、いずれか1つの措置を講ずることのほか、複数の措置を導入すると、70歳までの就業の機会が更に広がります。
70歳までの就業確保措置が企業の努力義務に
(出所)厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」
運用上の注意点
今回、努力義務として求められているのは、希望する高年齢者が70歳まで働ける制度の導入です。事業主に対して個々の労働者の希望に合致した就業条件を提示することまでは求められていないため、事業主が合理的な裁量の範囲で就業条件を提示したのに、労働者からの合意が得られず、結果として措置を拒否されたとしても、努力義務を満たしていないものとはなりません。
また、70歳までの定年引き上げや定年制の廃止以外の場合には、対象者を限定する基準を設けることについても可能です。ただし、その場合は労使間で十分協議を行い、労働者の過半数を代表する労働組合や労働者の過半数を代表する者等の同意を得ることが望ましいです。
高年齢者就業確保措置に関わる制度を社内で新たに設ける場合には、常時10人以上の労働者を使用する使用者については、就業規則を作成・変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
年金制度の改正
以前ニュースでも大きく取り上げられた「老後資金2000万円問題」ですが、公的年金だけでは老後の生活に不安が残り、懸念はなかなか払拭されません。そのような状況の中で、この度の高年齢者就業確保措置は、就業の機会を広げ、継続的な収入を確保するための手段として効果があると考えられます。
それに加えて、年金制度についても改正があり、「在職定時改定制度」が新設されます(2022年4月から実施)。これは、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者については、年金額を毎年10月に改定し、それまでに納めた保険料を年金額に反映する制度です。これまでは、退職等により厚生年金被保険者の資格を喪失するまでは、老齢厚生年金の額は改定されませんでしたが、在職定時改定制度の導入により、65歳から70歳までの間に年金額が毎年再計算され、その都度年金額が増えることになります。
副業・兼業やテレワーク等の柔軟で多様な働き方が増える中で、日本経済社会の活力を維持するため、障害者や高年齢者の活躍の促進が必要とされています。国も各種助成金や人的支援等、様々な支援を行っています。企業がより一層発展するためには、障害者や高年齢者を含む労働者をどう活用していくかが重要なポイントとなってくるでしょう。自社にとって効果があり、皆が活躍できる社会を実現するために、まずは労使一体となって真剣に取り組む姿勢が望まれています。
労務リスクを防ぐための実務対応が求められる
配信元:日本人材ニュース
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