2023年3月06日
本記事では、人事評価に焦点を当てて、人事評価の目的や項目、方法、課題と対策について詳しく解説します。併せて、人事評価シートの書き方のポイントや、職種別の人事評価シートの例文についてもご紹介します。
人事評価とは、社員の能力や企業への貢献度などを評価し、待遇や配置の決定、人材育成に反映させる仕組みのことです。人事評価は、主に「評価制度」「等級制度」「報酬制度」の3つで構成されており、企業の経営目標の達成や、社員のモチベーションの向上を目的として、多くの企業で導入されています。
・報酬制度
報酬制度とは、評価結果や等級を基に社員の報酬(給与・賞与・退職金など)を決める制度です。従来は年齢や勤続年数に応じて報酬を上昇させる「年功制度」が主流でしたが、近年は成果に応じて報酬を決定する「成果主義制度」を採用する企業も増えています。
・等級制度
等級制度とは、社員の能力や職務、役割などを基に社員の等級(ランク)を決定する制度です。等級によって、社員の配置や育成計画の方針、報酬額などが決まるため、人事評価の中でもとりわけ重要な制度と言えます。
・評価制度
評価制度とは、社員の能力や企業への貢献度を評価するための制度です。評価の結果によって、等級や報酬額などが決まります。そのため、評価結果は社員のモチベーションにも大きく影響し、客観的な評価基準が求められます。
適切な人事評価を行うためには、まずは人事評価の目的について理解しておく必要があるでしょう。そこで本章では、人事評価の目的4点について解説します。
・企業理念の明示
・適切な待遇や配置の決定
・人材育成
・社員のモチベーション向上
人事評価は、企業理念を基に社員に求める行動や期待を評価基準としているため、企業理念や社員に求める能力・行動を明確に示すのに役立ちます。
企業は研修などを通じて企業理念の浸透を図っていますが、日々の業務の中で常に企業理念を意識している社員は少ないでしょう。そのため、人事評価の評価基準を通して、企業理念や求める人材像を社員に再認識してもらう必要があるのです。
人事評価は、社員の能力を正しく理解するのに役立ちます。評価を通じて、社員の優れている点や改善が必要な点、成長した点などを把握し、適切な待遇・配置の決定が可能となります。
社員が能力を十分に発揮できる環境を整えれば、結果的に業績向上や企業成長にもつながります。そのため、適材適所の人員配置を実現することも、人事評価の重要な目的の1つです。
人事評価は、人材育成の方針を定めるのにも役立つと言えます。というのも、人事評価の結果を通じて、社員一人ひとりの適性や能力を把握でき、企業の経営目標を達成するために不足している点や、社員の優れている点などを発見しやすくなるからです。
また、社員自身も人事評価を通じて、自らの適性や改善点を知ることができるため、社員の自発的な成長を促す効果も期待できるでしょう。
人事評価は、社員のモチベーション向上にも役立つと言えます。人事評価があることで、社員は明確な目標を持って行動でき、日々の業務にも納得感を持って取り組むことが可能となります。
また、人事評価の結果が報酬や等級として適切に反映されることによって、企業に対する社員の信頼感を高める効果も期待できるでしょう。
人事評価は、複数の評価軸を用いて多面的に評価するのが一般的です。そこで本章では、人事評価の項目3点について解説します。
・能力評価
・業績評価
・情意評価
・能力評価
能力評価とは、業務を遂行する上で必要となるスキルや能力を基準に評価することです。社員の能力を的確に把握し、適切な人員配置や能力に応じた処遇の決定に役立ちます。
なお、能力評価の評価対象は業務上で発揮された能力に限定し、実際に業務上で発揮されなかった能力については評価の対象外とするのが一般的です。
・業績評価
業績評価とは、評価期間ごとの目標達成度や貢献度を基準に評価することです。目標に対しての実績や売上への貢献度を数値化し、社員のやり遂げた成果を客観的に評価するのに役立ちます。
なお、企業によっては、成果達成に至るプロセスも業績評価の対象に含めることがあります。ただし、プロセス (過程)は数値化しにくい部分も多いため、プロセスを評価する際は評価者の見解だけでなく、チームメンバーや外部の取引先などの意見もヒアリングした上で、多角的な視点で評価する必要があるでしょう。
・情意評価
情意評価とは、業務に対する意欲や姿勢、勤務態度を基準に評価することです。職務をやり遂げる責任感やチームへの協調性、ルールを守る規律性などが主な評価対象となり、能力評価や業績評価とは別に、社員の内面を評価するのに役立ちます。
ただし、情意評価は評価者の主観が入りやすく、定量的な評価が難しい点に注意が必要です。そのため、遅刻・早退の回数や欠勤日数といった、数値化しやすい項目も評価対象に組み込むなどの工夫が必要でしょう。
人事評価は時代のニーズに合わせて、様々な方法が開発されてきました。ただし、企業によって適切な人事評価の方法は異なるため、その種類や特性について正しく理解しておく必要があるでしょう。
そこで本章では、人事評価の代表的な方法を3つご紹介します。
・目標管理制度(MBO)
・コンピテンシー評価
・多面評価(360度評価)
・目標管理制度(MBO)
目標管理制度(MBO)とは「Management By Objectives」の略で、社員一人ひとりに個人目標を設定してもらい、その進捗や達成度合いを基準に評価する制度です。
目標管理制度は、社員が自発的に目標を設定するため、社員の自主性やモチベーションの向上に期待できる点が最大のメリットです。その反面、各社員が個人の目標達成だけに執着するようになり、協調性が失われたり、チーム力が低下したりするリスクがある点がデメリットと言えます。
・コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは社員のスキルや能力ではなく、高いパフォーマンスを発揮する人の行動特性(コンピテンシー)を基準に評価する手法です。
コンピテンシー評価は、実際に優秀な成績を上げている社員の行動を評価基準とするため、評価する側は評価がしやすく、評価される側も評価結果に納得感を得やすい点が最大のメリットです。その反面、モデル開発に時間や手間が掛かる点や、柔軟性に乏しく環境変化に弱い点がデメリットと言えます。
・多面評価(360度評価)
多面評価(360度評価)とは、直属の上司だけでなく同僚・部下・他部署の社員など、複数の人間が1人の社員を評価する手法です。企業によっては、取引先などの社外の人間も評価に加わってもらうケースがあります。
多面評価は複数の人間が評価を行うため、多角的かつ客観性のある評価結果を得られる点が最大のメリットです。その反面、評価者が増えることによって評価軸が曖昧になりやすい点や、談合(評価者同士が結託して高い評価を付け合う行為)が発生するリスクがある点がデメリットと言えます。
適切な人事評価制度を構築するためには、人事評価の課題と対策についても理解しておく必要があるでしょう。そこで本章では、人事評価の課題と対策3点について解説します。
・評価基準が曖昧である
・評価者によってばらつきがある
・企業と社員の間に温度差がある
・評価基準が曖昧である
人事評価の最大の課題は、評価基準が曖昧になりやすいという点です。評価基準が不明確であると、評価結果に対して不満を抱く社員も増えてしまいます。特に、成果を数値化しにくい職種は、社員からの納得感を得るのが難しい傾向があるため、注意が必要です。
社員からの不満を解消するためには、評価基準をより明確にし、納得感を高める必要があります。また、評価後にしっかりとフィードバックを行うなど、社員とのコミュニケーションを通じて理解を促すことも重要と言えるでしょう。
・評価者によってばらつきがある
人事評価は、評価者の感覚によって評価結果にばらつきが出ることがあり、その点も課題と言えます。特に業績評価は、チームメンバーなどの意見をヒアリングして評価するケースもあるため、評価結果にばらつきが生じやすいと言えるでしょう。また、情意評価も意欲や姿勢といった、抽象的なものが評価対象となるため、注意が必要です。
評価をするのは人である以上、ばらつきをなくすことは難しいでしょう。そのため、評価結果に至った理由や経緯を社員にしっかりと伝え、評価結果の透明性を高めることが重要となります。
・企業と社員の間に温度差がある
人事評価は、企業と社員の間に温度差が生じることもあり、その点も課題として挙げられます。どんなに適切な人事評価制度を構築したとしても、運用がうまくいっていなければ、社員のモチベーションアップにはつながらないでしょう。
人事評価制度を効果的に運用するためには、人事評価の目的や導入メリットなどをあらかじめ社員に共有しておき、人事評価に対する理解を促す必要があります。また、人事評価が一方的なものにならないよう、適宜フィードバックやアンケートを行うなど、社員の意見や不満を聞き出し、それを基に制度を改善する仕組みを作ることも大切です。
人事評価を運用する上で、人事評価シートは必要不可欠と言えるでしょう。
そこで本章では、人事評価シートの概要と書き方のポイントをご紹介します。
・そもそも人事評価シートとは?
・立場別の書き方
・そもそも人事評価シートとは?
人事評価シートとは、人事評価を実施する際の評価項目や、社員ごとの目標を整理・管理するためのシートです。
人事評価シートを作成する目的は、公平性の担保と社員のモチベーション向上です。人事評価シートは評価項目や評価基準が統一されるため、評価の透明性を高め、社員からの評価に対する納得感を得やすくなります。また、人事評価シートは評価項目や評価基準が明確になるので、社員も目標を立てやすく、結果的にモチベーション向上や成長促進につながっていきます。
・立場別の書き方
自己評価の書き方(評価される側)
自己評価をする際は、前向きに振り返ることが重要です。ネガティブな表現はどうしても消極的な印象を与えてしまうため、なるべくポジティブな表現を用いることを心がけましょう。
達成した項目を書く際は、客観性を保つために具体的な数値を入れるといいでしょう。また、自己評価シートにおいては、良かった点だけでなく課題や問題点も記載する必要があります。その際は、失敗に至った理由や経緯を分析し、今後の改善策もセットで記載しましょう。
・評価の書き方(評価する側)
評価する側も評価される側と同様、ネガティブな表現は避け、なるべくポジティブな表現を用いることを心がけましょう。
自己評価シートにおいては、結果だけを記載するのではなく、評価する点と改善が必要な点を具体的かつ客観的に書く必要があります。また、課題を指摘する際は、改善策とセットで記載しましょう。
課題を明確にしつつ最後は前向きな表現で締めくくり、社員の成長を促すような書き方を意識すれば、社員のモチベーション向上にもつながるでしょう。
前章で人事評価シートの書き方のポイントをご紹介しましたが、実際の例文を参考にしたいという人も多いかと思います。そこで本章では、7つの職種における人事評価シートの例文をご紹介します。
・事務職
・営業職
・エンジニア職
・クリエイティブ職
・企画・マーケティング職
・看護師・介護職
・公務員
・事務職
昨年の同時期と比較して月間の総仕訳数が20%増加しており、日々のルーティン業務を効率的に進めようとする努力や工夫が見て取れます。また、自身のスキルアップのために、日商簿記検定の取得を目指している点も高く評価します。
一方、昨年度は請求書の発送ミスが何件かあったので、今後はダブルチェック体制を設けるなどの工夫をして、発送ミスの削減を図ってください。
・営業職
昨年度はチームの営業目標120%を達成しており、営業部全体の目標達成にも大きく貢献してくれました。また、チームリーダーとしてメンバーと積極的にコミュニケーションを図り、チームの士気を高めようとする姿勢も高く評価します。
一方、昨年度は新規に獲得した顧客は2社にとどまったため、新たな営業ルートを開拓するなどして、更なる飛躍を目指してください。
・エンジニア職
昨年度はA製品の設計方法を一から見直してくれたことで、製造費の10%削減成功に大きく寄与してくれました。また、自らの業務の合間を縫って、若手の指導に積極的に取り組んでくれた点も高く評価します。
一方、昨年度は月の平均残業時間が前年比で20%増加しており、体調面が心配です。ルーティン業務は部下に任せるなどして、自身の業務の効率化を図ってください。
・クリエイティブ職
昨年度は新商品の開発プロジェクトに0から携わってもらい、当初の予定日通りに新商品を発売することができました。また、他部署とも積極的にコミュニケーションを図り、プロジェクトの成功に向けて陰から支えてくれた点も高く評価します。
一方、自身のやり方に固執してしまう傾向が少し見受けられるので、今後は周囲の意見も取り入れるなどの柔軟性を持って業務に取り組めば、より高い成果を上げられるでしょう。
・企画・マーケティング職
昨年度は製品Aの改良プロジェクトにおいて、前年比で10%のユーザー数回復を達成しており、プロジェクトリーダーとしての手腕を高く評価します。
一方、製造部との連携が不十分と見受けられる場面がいくつかあったので、今後は他部署とのコミュニケーションをより密にしていくと、昨年度以上の成果を期待できるでしょう。
・看護職・介護職
日頃から患者さんとも積極的にコミュニケーションを図っており、患者さんの不安を軽くしたいという気遣いが見て取れます。また、日々の業務においてもミスが少なく、仕事に対する責任感の強さは好感が持てます。
一方、新人の教育がやや疎かになっている部分が見受けられます。簡単な業務は少しずつ新人にも担当させるなど、今後は新人を育てる視点も持って日々の業務に取り組むといいでしょう。
・公務員
通常の窓口業務においては、市民の方々に対して真摯な対応ができており、仕事に対する高い意識が見て取れます。また、9月に行われた地域振興イベントでは、積極的に企画や広報を行い、イベントの成功に大きく貢献してくれました。
今後は個人だけでなく、窓口全体の業務の効率化も視野に入れて、日々の業務に取り組んでもらいたいと思います。
本章では参考として、人事評価に関するよくある質問3点とその回答をご紹介します。
・人事評価に不満がある社員へどう対応したらいい?
・数値化が難しい部署の目標設定はどうすればいい?
・人事評価制度の作り方の流れは?
Q.人事評価に不満がある社員へどう対応したらいい?
A.社員が人事評価に不満を持つ原因としては、評価結果に納得していないことが大きいと考えられます。そのため、フィードバックを丁寧に行うことが必要となります。フィードバック時に課題を指摘する際は、改善策もセットで示して、社員が意欲を取り戻せるようなアドバイスを心がけましょう。
また、人事評価の時以外にも定期的に社員とミーティングをするなど、日頃から社員とコミュニケーションを図っていくことも大切です。
Q.数値化が難しい部署の目標設定はどうすればいい?
A.過去との比較で数値化を図るのも1つの方法です。例えば、「昨年度と比較して、顧客からのクレーム件数を〇%削減させる」、「全社的な残業時間を、昨年度比で〇%削減させる」などです。
どうしても数値化が難しい場合には、社員自身に目標を設定させて、その達成度で評価をする手法も有効と言えます。ただし、評価をする側は、目標の達成難易度も加味した上で評価を行わないと、評価結果の公平性が失われるため、注意が必要です。
Q.人事評価制度の作り方の流れは?
A.人事評価制度の作り方の流れは企業によって異なりますが、人事評価制度を作成して、実際に運用を開始するまでの一般的な流れは、以下の通りです。
1.経営層と現場管理者の意見を聞き、評価項目を確定する
2.運用上の問題がないか、シミュレーションを行う
3.人事評価制度に合わせて、処遇等の社内規定を整備する
4.導入スケジュールを立てて、社員に告知する
人事評価は、企業の経営目標の達成や人材育成のためには欠かせない、非常に重要な制度です。しかしながら、評価制度のベースが整っていなかったり、評価の公平性が担保されていなかったりすれば、社員のモチベーションの低下につながるリスクも含んでいます。
最適な人事評価の手法や運用方法は、企業によって異なります。課題や工数も多いですが、企業とそこで働く社員に最適な人事評価制度を構築できるよう、長期的に取り組んでいきましょう。
配信元:日本人材ニュース
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