2024年7月22日
20年ぶりの新紙幣が7月3日からお目見えする。新1万円札の顔になった渋沢栄一(1840~1931)は近代日本の経済・産業の基礎を築き、国内最初の銀行である第一国立銀行や東京商工会議所、東京証券取引所などを立ち上げた。「日本の資本主義の父」と呼ばれ、生涯に500余りの企業・団体の設立かかわり、渋沢イズムは今日まで脈々と引き継がれている。
東京・王子(北区)の飛鳥山公園。江戸時代から桜の名所として親しまれる。この界隈は渋沢栄一にとって格別の地だ。
渋沢が公園隣接地に別荘を設けたのは1879(明治12)年。後に本邸を構えることになる敷地の眼前には、洋紙の国産化を目的に渋沢肝いりで1873年に設立した抄紙会社(現王子製紙)の王子工場が広がった。当時の鉄道唱歌に「王子の製紙場」として歌われたという。
渋沢邸は太平洋戦争時の空襲で大半が焼失したが、迎賓館「晩香廬」、書庫「青淵文庫」が当時の面影のまま残り、公園施設として整備された。園内には渋沢の足跡を紹介する「渋沢史料館」、洋紙発祥の地を記念する「紙の博物館」、郷土資料を扱う「北区飛鳥山博物館」が軒を並べる。
飛鳥山公園から歩いて数分のところにある「七社神社」も渋沢ゆかりのスポットだ。氏子として尽力を惜しまず、渋沢が揮ごうした社額・掛け軸などの奉納品が納められている。
神社には国立印刷局東京工場が隣接する。渋沢の肖像が描かれた新1万円もここで刷られる。しかも、国立印刷局の前身で初代理事長を務めたのが渋沢だったことから、縁の深さはなおさらだ。
渋沢栄一にあやかったおみくじ...七社神社(東京都北区)
明治新政府に請われて3年余り勤めた大蔵省を去り、民間に下ったのは1873(明治6)年、渋沢が33歳の時。真っ先に取り組んだのが日本初の銀行の立ち上げだ。現在のみずほ銀行の源流にあたる第一国立銀行を開業し、頭取に就いた。
国立第一銀行はその名前から国営を思わせるが、実は国立銀行条例に基づく民間銀行。同じ民間銀行でも「国立銀行」が銀行券を発行できたのに対し、「私立銀行」は認められないという違いがあった。
今日、わが国唯一の発券銀行である日本銀行が創設されたのは1882(明治15)年。渋沢がつくった第一国立銀行はその後、一般銀行に改組し、「第一銀行」として再出発。1971年に同じ都銀中位行の日本勧業銀行と合併し、第一勧業銀行を発足した。
バブル経済崩壊による巨額不良債権問題に背中を押される形で1999年に、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の大手3行が経営統合し、現在のみずほ銀行(みずほファイナンシャルグループ傘下)の誕生につながった。
「銀行発祥の地」の銘板(みずほ銀行兜町支店)
「銀行発祥の地」のプレートは、みずほ銀行兜町支店(東京・日本橋兜町)の壁にはめ込まれている。この地にそびえ立つのが東京証券取引所。渋沢が音頭を取り、1878(明治11)年に東京株式取引所として開場した。
同じ年には、東京商法会議所(現東京商工会議所)が全国に先駆けて創立され、渋沢が初代会頭に収まった。この年、大阪商法会議所(現大阪商工会議所)も発足し、明治維新期の大阪経済再生と近代化をリードした五代友厚が会頭に就いた。両氏は当時、「東の渋沢、西の五代」と並び称された。
現在、上場企業は3900社を超える。そんな中、「渋沢」の名がつく企業はただ一つしかない。渋沢倉庫だ。
「わが国の商工業を正しく育成するためには、銀行・運送・保険などとともに倉庫業の完全な発達が不可欠だ」。東京・深川の運河沿いの敷地(江東区永代2)に立つ記念碑の冒頭に刻まれている。ここは渋沢倉庫発祥の地で、かつては渋沢の私邸があった。
渋沢倉庫が本社をビル(東京都江東区)
1897(明治30)年、渋沢倉庫部を前身として発足。渋沢自ら営業主として渋沢家直営の事業として立ち上げた。渋沢倉庫は関東大震災(1923年)で被災し、中央区内に本社を移したが、2009年に86年ぶりに発祥の地に本社を戻した。
倉庫業界では三井倉庫ホールディングス、三菱倉庫、住友倉庫の旧財閥系が大手3社を形成し、渋沢倉庫は準大手の一角を占める。
渋沢は「道徳経済合一説」を提唱し、正しい道理で追求した利益だけが永続し、社会を豊かにできると説いた。企業経営をめぐってはガバナンス(統治)やコンプライアンス(法令順守)のあり様が事あるごとに問われているが、渋沢のこの言葉は時を超えて輝きを放っている。
配信元:M&A Online
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