ハイブリッドワーク~テレワーク・リモートワークの課題を分析して見えてきた新しい働き方

ハイブリッドワーク~テレワーク・リモートワークの課題を分析して見えてきた新しい働き方

ワクチン普及もあり、徐々に治まったように見えるコロナ禍において、多くの企業が従業員の働き方を今後どうするか、決断を迫られることが予想されます。そこで今回は、内閣府の継続調査結果をもとに、コロナ禍がビジネスパーソンへ与えた影響を読み解きたいと思います。テレワーク・リモートワークやオフィス出社のメリット・デメリットについて、今後の働き方のヒントを得ていただければ幸いです!

1.テレワーク・リモートワークに対する動きと意識の変化

以前より、日本では総務省が中心となり、テレワーク・リモートワークの普及が唱えられてきました。コロナ禍前は、ワークライフバランスの実現や労働力の確保、地方創生を掲げるなど、生産性向上の一環として注目されていましたが、実際に導入に踏み切る業種は限られていました。

何故なら、以下のような懸念があったからです。
・情報セキュリティの漏洩リスク
・目の届かない部下へのマネジメントの難しさ
・コミュニケーション不足によるモチベーション低下
・非対面ではきめ細やかな指導が難しい
・テレワーク・リモートワークできる業務が無い
こういった課題から、「出社が常識」という意識や働き方は変わりませんでした。

しかし、2019年以降の世界的なパンデミック到来により、テレワーク・リモートワークは急速に広まりました。感染者を減らすとして厚生労働省から推奨されたこともあり、仕事・学び・買い物・エンターテイメント・里帰り・飲み会まで、オンラインで行う人が世界的に増加しました。

2.テレワーク実施率を含む働き方の変化

内閣府が行った2019年12月から継続調査している「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を見てみましょう。
実施時期:第1回目2019年12月 第2回目2020年5月 第3回目2020年12月 

グラフ1. 地域別のテレワーク実施率 

部下の成長を促す「上手な仕事の任せ方」~任せる前の準備と自己効力感の引き出し方

※画像をクリックすると拡大されます。
※参考:内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P4
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf(最終アクセス:2021/12/6)

2019年、コロナ禍前にはテレワーク・リモートワークを実施している企業は全国で10%にすぎませんでした。しかし2020年春以降急速に増え、2021年では、東京23区内で半数以上が実施しています。また、東京とは差があるとはいえ、地方でも同じような伸び方をしています。

グラフ2.  テレワーク・リモートワーク実施頻度の変化 

部下の成長を促す「上手な仕事の任せ方」~任せる前の準備と自己効力感の引き出し方

※画像をクリックすると拡大されます。
※参考:内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P5
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf(最終アクセス:2021/12/6)

就業者におけるテレワーク・リモートワーク実施頻度の内訳を見てみると、2020年5月にフルリモート(100%テレワーク)はピークをむかえ、東京では4人に1人がテレワークを経験しました。全国的にもテレワークを試みた後、フルリモート(100%テレワーク)の就労者は減少したものの、テレワークと出社を併用した働き方(ハイブリッドワーク※)を選択する人が増えてきています。 全国的に見ても、ハイブリッドな働き方は同じ伸び方をしています。

※......ハイブリッドとは:組み合わせ 掛け合わせの意味
人事・労務キーワード:ハイブリッドワーク

3.テレワーク・リモートワークを実施してみて感じたメリット

近年のテクノロジーの発達により、人々が携帯電話やSNSに慣れてきたこと、クラウドやWeb会議などが一般化したことなどもあり、自粛期間を経てテレワークやオンラインセミナーなどが広く普及しました。在宅勤務を初めて経験し、やってみる前は不安を感じていたが、意外と問題なくできた、と感じた方は多いのではないでしょうか。テレワーク・リモートワークによるメリットは数多くあり、特に都市部に勤めるビジネスパーソンは、今まで当然のように我慢していたことから解放されるという、大きな変化を体験しました。

・通勤が不要
・時間を有効活用できる
・息抜きや気分転換がしやすい
・職場の人間関係のストレスが軽減される
・突発的な業務が発生しにくく、作業に集中できる
・新しいアイデアを生み出しやすくなる

このように、テレワーク・リモートワークには通勤(出張・移動)時間の有効活用、個人で行う仕事の生産性向上などのメリットが挙げられます。

また、経営者側のメリットとしては、次のようなことがあります。
・余剰のオフィススペースを解約して賃貸料のコストを削減できる
・在宅でしか働けない制約がある育児・介護中の優秀な人材が業務を継続できる
・新卒採用の際も応募者に好印象を与えることが多い
・人間関係や通勤のストレスが無くなることで離職率をある程度抑えられる

このように、コストの面や、人材獲得面でのメリットが見込まれます。

4.テレワークを実施して浮上した課題点

テレワーク・リモートワークは、テクノロジーを活用し、時間と場所を有効活用した働き方ですが、同じオフィスで空間を共有した働き方ではないため、複数の問題が浮上しました。 実際にテレワーク・リモートワークを体験してみて見えてきたデメリットとは何だったのでしょうか。グラフをご覧ください。
グラフ3.  テレワークのデメリット 
実施時期:第1回目2019年12月 ・第2回目2020年5月 第3回目2020年12月

部下の成長を促す「上手な仕事の任せ方」~任せる前の準備と自己効力感の引き出し方

※画像をクリックすると拡大されます。
※参考:内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P7
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf(最終アクセス:2021/12/6)

時間の経過とともに数値が下がった項目については、「やってみたらそれほど困らなかった」「時間と共に解決した」と実感した人が多かったのではないでしょうか。

例えば、2位 取引先等とのやりとりが困難(第1回)34.0%(第2回)31.6% は、顧客側・自組織双方ともに、Web会議やオンラインツールに慣れ、習熟度が向上したことがうかがえます。 コロナ前は難色を示す人が多かった「テレワーク・リモートワーク」という働き方について、実際に体験したことによる意識の転換点となったと言えます。

一方、時間と共にそのデメリットが増加したのは以下の3点です。 1位「社内での気軽な相談・報告が困難」(第1回)34.5%(第2回)38.4% 3位「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」(第1回)27.1%(第2回)28.2% 9位「大勢で一堂に会することができない」(第1回)13.3%(第2回)14.1%

気軽な相談・報告に悩む人が3回の調査において首位を独走していることや、3位の「コミュニケーション不足やストレス」などは増加が見えます。このことからもわかるように、リモートの課題はコミュニケーションにあり、「慣れ」によって解決するとは言い切れない課題であることがわかります。

例えば、オフィスにいれば気軽に聞けることでも、相手の様子が分からない中、割り込んでまで聞きにくいといったことはないでしょうか。電話をかけることを避けてメールで済ませてしまい、用件だけの素っ気ないメールになってしまったり、返信がないことにモヤモヤするなど、"オフィスにいれば感じなかった気まずさ"を感じた方もいるかもしれません。

特に、同僚や上司の顔もよく分からないままリモート勤務になってしまった新人にとっては、不安とコミュニケーション不足で辛い日々を送った方も多いことでしょう。会って話せば生じることのない誤解も生じやすく、ハラスメントのリスクも出てきます。

また、9位の結果「大勢で一堂に会することができない」(第1回)13.3%(第2回)14.1% から、リモートワーカーにとって、みんなで集まってコミュニケーションを取りたいという思いは根強いことが読み取れます。 長期化するテレワーク・リモートワーク実施により、最初は快適でも、時間がたつにつれ孤独や変調を感じるようになった人もいます。同僚との気軽な雑談やコミュニケーションが全くなくなることで、「人と関わりあいたい」という矛盾が生まれた方もいるのではないでしょうか。

どんなにリモートが進んでも、完全リモートに移行しなかったのは、リモートだけでは解決できない"人間ならではの課題"があったということでしょう。 では、「人間ならではの課題」の正体とはいったい何なのでしょうか。

5.テレワーク・リモートワークで見えてきた本当の課題

もう一度、先ほどの表に戻りましょう。 1位の「社内での気軽な相談・報告が困難」(第1回)34.5%(第2回)38.4% 3位の「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」(第1回)27.1%(第2回)28.2% どちらもコミュニケーションに関するデメリットです。リモートで超えられない壁はここにあると言えます。 コミュニケーションを難しくしている原因は以下の3点です。

(ア)情報量
オフィス内であれば気軽にとれたメンバーとのコミュニケーションが、リモートでは取りにくいことがわかりました。同じオフィスであれば、目の届く場所に相手がいるので、相手が忙しそうか、機嫌が良さそうかなどの「空気を読む」「雰囲気を推し量る」ことができます。 しかし、物理的に相手と離れているリモートでは、そのような情報量が圧倒的に少ないため、気軽に連絡することがはばかられる、ということが起きます。

また、電話やビデオ通話などのやりとりは、臨場感が薄いため、相手が話に集中する力も弱く、その分、言葉が訴求する力も弱くなります(メッセージが伝わる密度が低い)。

(イ)親近感
対面で話すということは、親しみを感じたり、相手との心理的距離が縮まるような感覚があります。同じオフィスに居ると、ささいなやりとりや雑談で打ち解けたり、相手のことをより深く知れたと感じる瞬間があります。 一方、リモートでのやりとりは、用件以外のことを話しづらく、相手の時間を奪わないように気を遣ってしまい、そっけないやりとりになりがちです。 また、オンラインだと、同時に話すことができないため、よく話す人とそうでない人とに明確に分かれてしまい、全体としての一体感も希薄になりがちです。

(ウ)理解度
 対面でのやりとりは、相手を目の前にして表情や理解度を確認しながらコミュニケーションを取ることが可能です。OJTなどが良い例で、相手が腑に落ちない表情をしていたり、不安を感じている様子を見てすぐにサポートすることができます。

一方、リモートでのやり取りで理解度を測ることは難しいと言えます。教える側や説明する側は、質問がないから大丈夫だろう、と判断し、受け手が理解不十分のまま進んでしまう可能性があります。リモートの場合は、対面よりも時間をとって、丁寧に業務指示や進捗確認が必要です。説明を録画するなど、オンラインツールの機能を使うことも良いでしょう。

以上の観点から、相手に伝えたい内容が複雑であったり、相手が受け容れにくい内容の時にはリモートよりも対面のコミュニケーションで行った方が確実だと言えます。 場面に応じてリアルでのコミュニケーションを利用するなど、メリハリのある関わり方が効果的でしょう。

また、テレワーク・リモートワークの定着により、全国的な営業会議などもオンラインで開催することが可能になりました。物理的に距離があっても、交通費をかけずに話し合いを重ねることができることは大きなメリットです。 ただ、上記の観点から、限られた時間内で有意義な話し合いを行うには技術が必要です。Web会議上で有益なアウトプットを出すには、様々な意見を引出し、目に見える形にまとめ、それを集約するファシリテーションスキルが有効です。

リモートのメリットを最大限に享受するためには、スムーズな意思疎通と、ツールを有効に利用するノウハウが必要になります。「情報量・親近感・理解度」これら3つの観点がテレワーク・リモートワーク攻略のポイントと言えます。

一方、オフィス出社は貴重なコミュニケーションの場です。なんといっても顔を見てコミュニケーションがとれます。顔を見て上司にホウレンソウできる、部下が元気かどうか見て感じて声をかけることができる良さはリモートにかないません。関係性が希薄になりがちな環境の中で、安心できる職場を作ることはこの先も必須と言えます。

最近では、週に何日か出社し、何日かはリモートで仕事をするハイブリッドワークという働き方が定着しつつあります。リモートの良さ・オフィス出社の良さを掛け合わせ、最も高い生産性を発揮できる環境を選択できるとして注目されています。

6.アフターコロナでもハイブリッドワークを選ぶ必要性

私たちはリモートワークを体験しました。そのうえで、リモートワークでも可能だったこと、リモートワークでは補えなかったことが明確になりました。 ワクチン接種が進み、オフィス出社が戻りつつある日本社会ですが、コロナ前と全く同じ働き方に戻ることはないように思えます。 前出の内閣継続調査によると、リモートワークを実践してそれを継続したいと望んでいる人の数は全体の8割に上っています。

グラフ4.  テレワーク・リモートワークの実施希望 

部下の成長を促す「上手な仕事の任せ方」~任せる前の準備と自己効力感の引き出し方

※画像をクリックすると拡大されます。
※参考:内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P8
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf(最終アクセス:2021/12/6)

グラフ5.  テレワーク・リモートワーク経験による意識変化

部下の成長を促す「上手な仕事の任せ方」~任せる前の準備と自己効力感の引き出し方

※画像をクリックすると拡大されます。
※参考:内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P9
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf(最終アクセス:2021/12/6)

ワークライフバランスにおいても、テレワーク・リモートワークを経験した後、仕事よりも生活を重視するように変化した人の数は増えています。 また、地方移住に関心のある人も増加しています。その理由に「「テレワーク・リモートワークによって地方でも同様に働けると感じたため」と挙げる人は多いでしょう。

場所に囚われない働き方は、子育て中や介護などで離職する人を抑える効果に加え、ワーケーションや地方移住などの新しい可能性を秘めています。この先テレワーク・リモートワークが可能な職場環境を整えることは、優秀な人材を採用・確保する競争力となるでしょう。

まとめ

テレワーク・リモートワークを実際に経験し、恩恵を受けると同時に課題も浮上しました。一方、ストレスの多かったオフィス出社の良さも明確になりました。 コロナ禍を経験したことで、「働く人の意識」は間違いなく変化しています。社会情勢を素早く察知し、テレワーク・リモートワークに柔軟に対応できた組織に対して、従業員の評価も高まりました。

近い将来、ビジネスパーソン自らが、最も生産性が高く、公私共に喜びを感じられる働き方を選ぶ世の中になっていくでしょう。今後はどちらかの働き方だけに偏るのではなく、臨機応変に対応できる企業の姿勢が重要と言えます。

参考:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」 https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/index.html (最終アクセス:2021/12/6)

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