レジリエンスは「困難にぶつかっても、しなやかに回復し、乗り越える力」のことです。
「メンタルタフネス」が、心のコンディションを整える今すぐにできる即時的なテクニックだとすると、「レジリエンス」は「困難に対する自身の受け取り方を変えていく」意識改革です。
すぐに結果は出なくても、長い目で見た時に、ストレス耐性を高めていく有効な方法と言えます。
メンタルタフネススキル:
心理状態をどのように1段階良い方向にもっていくかのテクニック(即時性がある)
レジリエンス向上スキル:
メンタル耐性を高め、成果を生み出しやすい心構えを作る(意識変革なので時間はかかるが効果は絶大)
現代はVUCAの時代と言われています。
Volatility 変動性......変化の激しい時代
Uncertainty 不確実性......先行きが見えない時代
Complexity 複雑性......膨大な情報が行きかう時代
Ambiguity 曖昧性......明確な答えがない時代
このような先行き不透明な時代においては、誰もが、不安を感じたり、疑いを持ち、それがストレスとなっています。
レジリエントな人は、不安や疑いの気持ちで自分自身が圧倒されることのないように、それらを防ぐ方法を知っています。
今回は、ストレスに対する自身の心の持ち方・受け取り方を工夫する「レジリエンススキル」についてご紹介します。ストレスと上手に付き合いながらメンタル耐性を高めると、失敗しても自分を立て直して前に進むことができます。ぜひご一読ください!
日々、仕事をしていると、様々な出来事が起こります。しかし、同じ状況・出来事であっても、それに対する反応は人によって様々です。
【例】
<状況・出来事>
部下が会議に遅刻してきた
<感情・行動>
佐藤さん:怒りを感じる。一言注意しないと気が済まない。
田中さん:業務がひっ迫しているのかもしれない。心配だな。
会議に遅れてきた部下に、佐藤さんが怒っているのに対し、田中さんは心配しています。同じ出来事に遭遇した二人でこのような感情・行動の違いがでるのは、自分が見て感じるまでの間にB(Belief、考え方、ものの見方 )というフィルターがあるからです。このような考え方をABC理論と言います。
■ABC理論
A(Activating event、出来事)がそのままC(Consequence、感情・行動)につながるのではなく、その間にB(Belief、ものの見方、考え方)というフィルターが入り、それを通して感情・行動が生まれる(A+B=C)
【佐藤さんのB(Belief、考え方、ものの見方 )】
佐藤さんは、新人の頃、会議に遅刻した際に、当時の上司から「やる気があるのか?」と問われ、厳しく叱られたことがありました。
この体験は佐藤さんの中で強い印象に残る出来事となり、上司の影響を受け、「会議に遅刻する=やる気がない」というB(ものの見方)が作られました。
今回の、部下が会議を遅刻するというA(出来事)に遭遇した際に、上記のB(ものの見方)の見方が発動し、怒りを感じ、叱責というC(感情・行動)が生み出されました。
【田中さんのB(Belief、考え方、ものの見方 )】
田中さんは、新人の頃、非常に忙しい部署に配属されました。田中さんは仕事が良くできたので、上司・先輩から信頼され、新人ながら多くの業務を担当していました。
ある日、緊急対応の仕事に集中していたら、すっかり、他部署との合同ミーティングのことを失念してしまい、30分遅刻してしまいました。会議の後、直属の上司から、「会議に遅刻するなんて、社会人として恥だぞ」と怒られました。田中さんは、大変悔しくなり、「会議に遅刻するほど、余裕がなく仕事に追われていることに気づいてくれよ!」と叫びたくなりました。
この体験は田中さんにとって、ある意味トラウマとなり、以後、「遅刻する=業務がひっ迫して余裕がない」というB(ものの見方)が田中さんの中に出来上がりました。
このように、佐藤さんと田中さんの感情や行動の違いは、そのままこのB(ものの見方)の違いといえます。
起きてしまったA(出来事)を変えることはできませんが、「起きてしまった出来事をどう解釈するか=B(ものの見方)」によって、C(感情・行動)が変わります。これがABC理論であり、レジリエンスを考える際の基本となります。
「起きてしまった出来事をどう解釈するか=B(ものの見方)」を生み出す原因になるものは以下のように3つあります。
■B(ものの見方)を生み出す原因
①育ってきた環境で培われたもの(社会・親・友達などの影響)
②強い印象を受けた出来事の影響
③自分でも気づかない表層下の思考
③は意識下にあるものなので、なかなか見える化することが難しいですが、①・②に関しては、自分の感情が生み出された要因を整理することで、ある程度特定することができます。
「B(ものの見方)」によって意識がマイナスに偏ると、感情や行動が影響され、ストレスに対してしなやかに対応することが難しくなってしまいます。
予想外の出来事が起きた時や、期待していた結果が出なかった時に、衝動的に発言したり、行動したりしてしまう場合があります。また、問題の渦中にいる時は、思考がその問題に囚われてしまい、冷静な判断ができず、原因が全て自分にあると思った方がラクだと考えてしまうことや、また逆に、全てを周りのせいにしたくなる時もあるでしょう。
レジリエンスを高めるには、そうした混乱時にも、偏ったものの見方をせず、冷静にA(出来事)の発生原因などを考えることなどが重要となります。
マイナスに偏りがちな「B(ものの見方)」がレジリエンスを妨げると理解したうえで、偏った「B(ものの見方)」を変えるための方法を見ていきます。
現状を正しく判断するために、自動的に浮かぶ考え方が正しいかどうかを自問自答するクセをつけます。そして、偏った否定的な「B(ものの見方)」が非合理的なものであれば、客観的で肯定的なもの「D(異議、Bに対する合理的な反論)」に変えます。 すると、出来事の意味付けが変わり、それによって導き出せる、「C(感情・行動)」とは違う「E(結論)」が生まれます。
・D(Dispute、異議、Bに対する合理的な反論)
偏った思考・ものの見方を変えるために、反論するつもりで自分に問いを投げかけます。冷静にB(ものの見方)を眺め、自問自答しながら反論します。それがD(異議)です。
・E(Effect、結論、Dによる思考の変化)
D(異議)を選択したとしたらどうなるのか、考えられるE(結論)を導き出します。肯定的な仮説を導き出せれば、後ろ向きではなく建設的な結論が出ます。
こうした、「A(出来事)」に対し、偏った「B(ものの見方)」を持った結果生まれる「C(感情・行動)」と、Bに対する反論としての「D(異議)」によって生まれる「E(結論)」といった思考の過程を客観視できる枠組みをABCDE理論といいます。
次回はこのABCDE理論を使って、偏った「B(ものの見方)」をどのように改善していくかということについて具体的にみていきます。
<レジリエンス関連リンク>
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