ビジネスパーソンには、自分の下に部下・後輩ができた瞬間に、「フィードバック」という仕事が生まれます。「フィードバック」とは、後輩や部下から聞かれた質問・連絡・報告・相談に対して、返答・助言するものです。
最近の傾向として、「部下・後輩に嫌われるのが怖くてはっきり注意できない」「部下・後輩に"ハラスメント"と取られると面倒なので、率直な指導ができない」といった声を耳にします。もちろんハラスメントは許されることではありませんが、行動を修正し、成長してもらうためには、育成する側が勇気をもって率直にフィードックする必要があります。
適切なフィードバックがされないと、部下・後輩は次のようなことを感じ、モチベーションの低下や、関係性の悪化を招く場合もあります。
「何も言ってくれないけど、これでやり方があってるのかな? 不安......」
「なんか違うんだよねって言われても、どうすればいいかわからない。やる気を無くした」など
半面、適切なフィードバックを受けることができれば、タイムリーな指導で成長を促すことができます。
そこで本日は、「適切で率直な、すぐに動けるフィードバック方法」についてご説明します!
「フィードバック」は部下・後輩をサポートし、成長を促すための手法です。その内容によって、フィードバックは下記の2種類に大別できます。
(1)ダイレクト・フィードバック
部下・後輩から受けた相談に対する返答や、業務を観察して感じたこと、改善してほしいこと、自らの経験を活かしたアドバイスなど、特定の事象や業務内容に対してダイレクトに助言を行います。気づいたら、できるだけ早いタイミングで行うと効果的です。
(2)リフレクション・フィードバック
部下・後輩の一定期間の行動や成果を踏まえて、今後の成長、改善行動として行うべきことや、今後、具体的に取り組むべきアクションプランについて、部下・後輩と対話をしながらフィードバックを行います。双方向的なコミュニケーション・コーチング的なアプローチです。
今回は、2つのフィードバックのうち、ダイレクト・フィードバックを取り上げご紹介いたします。
日常業務を行ううえで、相手へのダイレクトなフィードバックが必要とされる場合は、大きく分けて3つあります。
(1)行動の軌道修正
仕事の報告をさせた際に、誤った行動を取っていると感じた時や、新人・若手を観察して仕事の仕方や取り組み方、考え方に違和感を抱いた場合に行います。行動がズレたまま業務を行うことは長い目でみて組織の損失につながります。日常的に行うようにしましょう。
(2)教育的指導(注意)
コンプライアンス違反にあたること、また、事故・怪我など、リスク・安全に関すること、仕事への意識が低い場合などは、厳しく注意することが必要です。リスク管理の意味合いからも、早急に率直に行うことが重要です。
(3)良い取り組みに対する承認
フィードバックというと「改善・行動修正」と思いがちですが、良い取り組みに対して「それで合ってるよ、そのまま進んで!」と承認するためのフィードバックもあります。相手が良い行動を行っている場合には、しっかりとその取り組みを評価し、承認して自信を持たせましょう。 また、フィードバック後、相手に変化が見られた場合にも気づいて褒めると効果的です。
このように、日常業務での自身の行動が「合っているのか」「修正する必要があるのか」を、はっきりと提示してあげることがダイレクト・フィードバックです。「行動をどう改善したらいいか(またはそのままでいいのか)」が明確に伝わることが、良いフィードバックです。
行動修正・改善のためのフィードバックにはコツがあります。「あれはちょっとまずいよ......」だけでは何がいけなかったのか伝わりません。具体的に何がまずかったのか、どうすれば軌道修正できるのかを率直に、客観的に伝えましょう。その際、押しつけやハラスメントにならないよう気をつけたいポイントは以下の通りです。
(1)熱意・愛情をもって、率直に毅然と伝える
言っている内容が正しくても、気持ちがこもっていなければ、相手に言葉が届きません。 また、遠慮気味に、あいまいに話すと、相手に伝わりません。 厳しいことを伝える際には、逃げずに、勇気をもって率直にフィードバックしましょう。
「率直」とは、"ありのままで隠すところ"がないという意味です。 変化を望んでいるのは自分なのに、あたかも他の誰かがそう思っているかのように伝えたり、遠回しな言い方をして相手に察してもらうことを期待していても、自分の「本気」は伝わりません。
(2)相手の特徴を把握した上で「個」別対応をする
一律に同じ内容で部下・後輩に指導するのではなく、相手の強みや弱み、職位・立場、現在の状況などを総合的に加味して、1人1人「個」別指導を行ってください。 自分の成功談などの自慢話をしたり、一方的な価値観を押しつけるのもやめましょう。
(3)客観的な数字や具体的な行動などの事実を基に行う
明確なフィードバックを行うためには、どんな状況で何がまずかったのか それがどう業務に影響するのかを説明することです。それには、SBIを意識して相手にフィードバックを行うとうまくいきます。
<SBIで状況を分析する>
S(Situation):どのような状況で
B(Behavior):どのような行動をし
I(Impact):どのような影響・成果をもたらしたのか
<SBI分析例>
S(Situation):来月の〇〇さんの見積金額が目標よりショートしている
B(Behavior):電話でのアポイント件数が30件で目標よりも20件少ないことと、訪問数も5件で目標より5件少ない
I(Impact):行動量が足りなかったことが見込み金額が1,000万円も少なくなってしまった原因だ
<フィードバック例>
SBI分析をもとに、現状の行動結果を客観的に伝えます。「来月の〇〇さんの見積金額が目標よりショートしています。〇〇さんの今月の電話アポイント件数は30件で、目標よりも20件少ないですね。訪問数も5件で、目標より5件少なかった。見込み金額が1,000万円も少なくなってしまったのは、これらの行動量が足りなかったことが原因だと私は考えています」
そのうえで、次回はどう行動して欲しいのかを具体的に伝えます。
「架電業務は積極的に行ってください。かかってきた電話にはワンコールで出ることを目指してください」
(4) 相手が自信を無くさないように注意する
注意する際にはまずほめてから厳しいことを言う、最後はポジティブに、など、話す順番について注意する配慮が必要です。
<フィードバック例>
「初めてのプレゼンテーションにしては堂々としていたし、よく準備もしていましたね。
1つ気になったのは、後半の説明資料が少々わかりにくかった。具体的には......するともっと良くなると思います」
(5)相手を否定しない表現にする(Iメッセージで伝える)
行動を修正して欲しい場合、現状の直して欲しい部分を伝えなければいけません。相手の自信を無くさせないためには、相手を否定する表現にも注意が必要です。
★「あなた」ではなく「私」を主語にして伝える「Ⅰメッセージ」を活用する
「あなた」を主語にすると、「~するべき」という上からの印象が強くなり、相手が反発したり、素直にメッセージを受け取れなくなる可能性が高くなります。
■「あなた」を主語にした場合の例
「あなたはいつも会議に遅れてくる。あなたはやる気がない」
※決めつけのイメージを与えます。
■「私」を主語にした場合の例
「あなたは連続して5回会議に遅れてきた。(事実)私は、あなたがプロジェクトに興味がないのではないかと思っています」
※やわらかい提案のイメージです。事実と意見も分けて話せます。
このように、相手の状況や事実を客観的に捉え、感情的にならずに改善点を伝える工夫が必要です。
行動を変えて欲しいから、と一方的に注意や軌道修正をフィードバックした場合、相手は批判や攻撃として受け取りがちです。厳しいことを伝える際は、なるべく相手に受け容れやすい形にするために以下のことに留意する必要があります。
(1) 相手ができる範囲の提案にする
人は自分の能力の範囲内でできることであれば、相手の要望に対して前向きに応じやすいものです。たとえ、それが自分の望まないことであったとしても、その要望が合理的で建設的なものであり、自分をただ批判するものでなければ、相手が協力的になってくれる確率は高いです。 しかし、相手の実力不足や性格的な問題などの相手の「弱点」を指摘するだけの内容であれば、相手は自分の要望を受け容れることはないでしょう。
<フィードバック例>
× いい加減な性格を直さないと、いつまでたってもミスはなくならないよ!
○ ミスを未然に防げるよう、まずはチェックリストを作ってみてはどうだろう
(2) 相手が受け容れられる内容であれば、相手も変わりやすい
相手に行動を具体的に変えてほしければ、相手が受け容れることが可能な量、質で相手に依頼することが必要です。そうでなければ、相手も「自分を変えなければいけない」という前向きな気持ちになれません。相手にとって無理なことを上から押し付けても、かえって防御的な姿勢を取らせてしまいます。対等な立場から実現可能な提案を考えてみましょう。
(3) 自分の理想、希望を押し付けない
特に、上司・部下などの上下関係がある場合、相手に対して「〇〇であればいいのに」「〇〇になって欲しい」といった理想、希望を多かれ少なかれ持っています。しかし、そのような要求を一方的に押し付けても、相手がそれを受け容れることはまずないでしょう。
(4) 相手が自ら納得し、変わってくれることがベスト
相手に変わってほしいと提案する際には、できれば相手が自ら納得し、変わってくれることがベストです。納得しないまま無理に押し付けても、それは力で封じ込めることであり、相手が心から真に変化することにはつながりません。「対話」を通じて、自分の伝えたいことを腹の底から理解してもらう必要があります。
「変わってほしい」と伝えたから部下・後輩が変わるはず、と考えてしまいがちですが、相手に納得感がないと行動を変えることはできません。相手の変化・成長を願い、具体的なアドバイスをするという姿勢が大切です。
厳しいことを伝える前にまず「ほめる」ことは効果的です。良い取り組みをほめる(承認する)ことで、相手の仕事に対する意欲は驚くほど向上します。ほめるべき点を積極的に見つけるよう心がけましょう。承認は内発的動機づけになり、モチベーション向上につながります。自分では「できて当たり前」と感じている長所でも、言語化して伝えることで自信を持たせることができます。
<フィードバック例>
「いつも早めに報告してもらえるので助かります。ありがとうございます」
「〇〇さんを中心としたクレーム対応チームの努力のおかげでお客さまの潜在ニーズの共有等、多くの面で有益だったと思います」
このように行動や取り組みを承認されると、自然なモチベーションを誘発し、良い取り組みを継続させることができます。
「次回からも早めに報告しよう」
「クレームを共有して潜在ニーズを掘り起こすのに役立てよう」
フィードバックに必要な要素は「Can」「Keep」「Change」「Try」です。できたことを褒め(Can)、今後も続けた方がよい点を伝え(Keep)、今後どのように変えていくかを考えます(Change)。そのうえで、相手が今後より成長していくためには、どのような業務に挑戦していくかを話し合います(Try)。成長に結び付かない叱責で終わらないよう、上司・先輩がこの4つの要素を十分理解した上でフィードバックを行うことが重要です。
フィードバック(注意・行動修正)は荷が重いと考える方も多いと存じますが、ほめること、やる気を引き出すことなども含め、相手の成長の一助になることはすべてフィードバックです。タイミングを逃さず、日常的に伝えていきましょう。
非正規雇用やシニアの方、外国人人材など、雇用形態や国籍が多様なメンバーとともに協働する機会は今後ますます増えていきます。そうしたダイバーシティ職場において、合理的、論理的なフィードバックによる指導・コミュニケーションへの関心が高まっています。その人にあった成長モデルを粘り強く構築していく育成方法はこれからも必要になることでしょう。
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