研修を語る
2024/10/28更新
岩崎四代に学ぶ仕事との向き合い方研修を語る ~エピソードから考えるリーダーの素質
岩崎家、四人四色のリーダーシップを学ぶ
―「岩崎四代」と言えば、三菱の創業者である岩崎弥太郎氏を初代に、弥之助氏、久弥氏、小弥太氏ですね。どなたも近代日本の経済において、大活躍をしたビッグネームですが、個人に関する歴史的な教養講座はあっても、四代まとめてのビジネス向け研修というのは珍しいのではないでしょうか。
非常に珍しいと思います。この研修は弊社の新作で、現代日本の閉塞感や疲労感を吹き飛ばし、困難を前向きに乗り越えてもらおうと開発した、偉人の足跡に学ぶシリーズです。おかげさまで、リリース早々から多くのお申込みをいただいております。
岩崎四代の生きた幕末から昭和初期は、開国後の混乱や大恐慌に見舞われた激動の時代と言われ、今の長引く不況に通じるものがあります。その時代を生き抜いたリーダーの思想やエピソードから、日々の業務へ取り組む姿勢を考えることで、新しい気づきを得ていただけたらと思います。
―従来にない、ユニークな研修ですね。弥太郎氏は有名ですが、その後に続く代はご存知ではない人も多いでしょうから、いろいろと学びが多そうです。
創業者の弥太郎氏が興した事業を次代以降が受け継ぎ、それぞれ異なるリーダーシップを発揮しながら、事業を発展させていくエピソードは面白いですよ。ご自身の仕事や会社の状況に照らして考えてみると、勉強になる発見も多いと思います。
―こちらの研修は、どのような方が対象になりますか?
リーダーシップを学ぶ研修となりますので、基本的にリーダー以上の方が対象となります。厳密に規定があるわけではないのですが、次期管理職以上でリーダーとして部下を引っ張っていく立場の方であれば、より内容を実務に反映しやすいのではないかと考えます。ただし、部下指導の研修というわけではなく、あくまでも岩崎一族のリーダーシップについて学ぶ内容です。
―そこも、一般的なビジネス研修とは一線を画す内容ということですね。
そうですね。マネジメントの研修であれば、弊社にはより実践的なものが豊富にラインナップされています。それらに対してこの研修は、歴史を振り返ることで新しい視点から物を考え、また岩崎四代の熱いエネルギーを感じて、勝ち残るヒントをつかんでもらうことがポイントになっています。「現状を打破したい」という方には、よい刺激になると思います。
歴史や人物に関する知識はゼロでもOKです
―この研修を申し込まれる方の、職種や年齢、受講理由などをお教えください。
人によって、研修を受講する背景は異なります。主にリーダーシップを学ぶ内容ですが、年齢、役職、業界などは限定しておりません。さまざまな方に受けていただきたいプログラムです。
理想としては、岩崎一族ゆかりの企業の方には、ぜひ受講していただきたいなと思います。創業者から数代にわたるリーダーたちが、どのようなことを考えていたのか改めて知ることで、業務に取り入れるべきマインドなど、感じていただけるのではないでしょうか。
―岩崎四代について、どの程度の知識を持っていればよいでしょうか。
全く知識は必要ありません。また、当時の歴史についてご存じでない方でも大丈夫です。このプログラムは日本の近代史や人物史について学ぶことが目的ではなく、あくまでも弥太郎氏から脈々と連なる一族のリーダーシップに触れて、取り入れたい考え方や行動を発見してもらうのが目的です。
―歴史に詳しくなくても大丈夫、ということで安心しました。ちなみに、このプログラムの中で最も肝になる部分や、ここは特徴的、という部分はどのあたりでしょうか。
やはり、ワークになります。研修の序盤で、岩崎一族の大まかな説明をして、初代である弥太郎氏から順に各リーダーの生涯や思想についてエピソードをご紹介するのですが、その後に「考え方や行動から、自身に取り入れたいと感じたことを共有する」というワークを行います。
それぞれの章で感じたことを自由に書いていただき、最後に「自らの業務の中で、三綱領をどのように活かしているか、またはどのように活かしていくのかを書き、共有する」というワークでまとめます。ここがいちばん力を注ぐ部分です。
―「三綱領」という言葉は、聞いたことがあります。三菱グループの企業理念ですね。
そうです。小弥太氏が揮毫(きごう)した「所期奉公」「処自光明」「立業貿易」から成る三つの社是なのですが、この最後のワークの章で掘り下げて解説するため、受講者からの深い意見が期待できる部分です。四代それぞれのリーダーシップを振り返って、どう思うかという総まとめになる部分でもあり、最初のワークで書いたものとの意識の変化を、対比してみるのも面白いはずです。
―「三綱領」は内容を聞いただけでも背筋が伸びるような訓示ですので、きっと受講者の方も、強いメッセージに影響を受けられるでしょうね。日々、仕事をしていると忙しさに追われて、意欲や前向きな姿勢を維持できなくなることも多いですが、モチベーションを上げるためには、それくらいインパクトのある言葉が必要なのかなと思います。
恐慌を乗り越えた弥太郎氏、発想の転換をした弥之助氏
―三菱財閥を築いたそれぞれのリーダーごとに、エピソードを紹介していく流れになっていますが、やはり最もインパクトの強い人物と言えば、創業者の弥太郎氏でしょうか。
そうですね。第二章が弥太郎氏の話になるのですが、知名度が高いですし、エピソード的にも非常に豪快です。中でも父親が危篤になった際、東京から高知間を16日で走った話は逸話として語り継がれています。弥太郎氏は土佐藩の身分の低い武士、地下浪人(じげろうにん)の長男でしたが、向学心が高かったので当時は江戸へ出て勉強をしていました。
―江戸から土佐、約800㎞ありますが......。今のように舗装の道やランニングシューズがあるわけでなし、体力もすごいですが精神的にも強靭と言わざるを得ません。
その事件では結局、権力にたてついて投獄までされるのですが、そんな逆境をバネにしてチャンスをつかんだ、というお話を教材では取り上げています。現代人の感覚からすると、逞しさに驚かれる方も少なくないでしょう。弥太郎氏の父親も土佐でいう「いごっそう(融通が利かない頑固者という意味)」だったので、血筋なのかもしれませんね。
―教材では、弥太郎氏のお母さんの話にも触れられているようですが、これもまた強烈というか、「岩崎家信条」を拝見して身が引き締まる思いがしました。こういう教えは、弥太郎氏の次代を継いだ弟の弥之助氏にも通じるものなのでしょうね。
そうですね。ただし、リーダーとしてのタイプはずいぶんと違います。豪胆で逆境に負けない戦意を持つ弥太郎氏に対し、弥之助氏は「発想の転換」がポイントです。弥之助氏はずっと兄をサポートしてきましたが、弥太郎氏の晩年は事業が存亡の危機に陥っており、その窮地から大きな方向転換をすることで三菱を立て直した功労者です。
―ただでさえ成功した初代の後を継ぐ二代目は、プレッシャーに負ける人も多いのに、ピンチの最中にバトンタッチは辛いと思います。ちなみにこの方、明治5年にアメリカ留学しているんですね。しかも一年で英語をマスターしていることに驚きました。当時の人の優秀さを知ると、頑張らないといけないという気になります。
知恵のある方だったようですね。「危機(ピンチ)はチャンス」を地で行く人物で、彼の強みである発想の転換は、現代ビジネスにも生かせるヒントが数多くあります。銅山、水道、炭鉱、造船、銀行と、弥之助氏の代で事業の幅が大きく広がりましたが、その軸となる思想は岩崎家や三菱だけでなく、「日本の未来の発展のために」という視点であったことも、リーダーとしての器量がうかがえます。
企業の地盤を固めた久弥氏、理念を浸透させた小弥太氏
―第四章からはぐっと現代に近づいて、弥太郎氏の長男、岩崎久弥氏の時代の項目ですね。この方は、岩崎弥太郎氏や弥之助氏に比べて、地味な印象と言いますか、あまり知られていないような感じがします。
そうですね、関連している書籍が非常に少ないです。ただ、大きく事業を伸ばしたという点では、久弥氏の功績は三菱にとっては大きいと考えます。また、弥太郎氏や弥之助氏の時代とは、リーダーシップの方向性が変わったことも、この研修においては注目すべき点です。
―どのような点が変わったのでしょうか。
部下に対する考え方が大きく変わりました。それまでの岩崎家は、どちらかというと社主による独裁的な経営方針だったのですが、久弥氏は事業ごとの独立採算制を導入することで、優秀な経営幹部に権限を委譲しました。この近代的な経営システムが、三菱を日本有数の企業へと成長させたといっても過言ではないでしょう。
―グループが大きくなれば、社長一人での采配には限界がありますよね。研修項目の中にも「部下に任せ、部下を信じる」という見出しがありますが、確かに先代までのリーダーシップとは異なる印象を受けます。
岩崎久弥氏は引き際も独自の哲学を持っていました。第一次大戦下、事業の最盛期に独断で小弥太氏に代を譲り、その後は事業に一言も口を出さなかったそうです。部下を信じて任せるというリーダーシップを、貫き通した格好ですね。
―実に潔いですね。初代や二代目のような独裁型もパワフルですが、久弥氏のようなチームワークに重きを置いた采配は、次代の流れを感じます。そして、最盛期の事業を受け継いだ四代目の小弥太氏。弥之助氏の息子になりますね。この方は、どんなリーダーシップを執られたのでしょう。
この時代は、背景が非常に複雑でした。第二次世界大戦の前後ということもあり、ストーリーとしてはいちばん波乱万丈かもしれません。
―戦時中の経営者は、先の見通しが立たないでしょうね。章の題名は「理想を持ち、実現させる」となっていますが、どのようなリーダーだったのでしょう。
岩崎小弥太氏の項目で重要なキーワードのひとつに「社会的責任」があります。社長就任後、三菱の倉庫で大事故が起こったことがありました。その際小弥太氏は、巨額の賠償金や見舞金を支払うだけでなく、自ら現地へ赴き被害に遭った方々へ直接頭を下げてお詫びに回ったそうです。この話は、彼のリーダーとしての姿勢を表すエピソードです。
―三菱財閥のトップ自らが謝罪行脚、なかなかできないことですね。今でこそ大企業では定着した意識ですが、当時は「社会的責任」という概念が薄かったのではないかと思います。
小弥太氏は東大法学部を中退して、英国留学した国際派だったため、視野が広かったという理由があるかもしれません。多角化した事業を組織改革によって株式会社化し、三綱領を作ったのも小弥太氏です。
―ざっと四代のエピソードの一部を聞いただけでも、本当にそれぞれ違うのだなと興味が出ました。これはぜひ、研修でじっくり向き合ってみたいですね。
「三綱領」は、現代ビジネスにも通じる理念です
―四代それぞれのリーダーシップを学んだ後は、小弥太氏の作った「三綱領」ですね。最後のまとめになるわけですが、この第五章の要点はどのあたりでしょうか。
やはり三綱領は岩崎四代を知るにあたり、非常に重要な項目です。先ほどもワークの流れの部分でお話しましたが、それぞれのリーダーの個性の違いを知っていただいたうえで、最後のワーク「自らの業務の中で、三綱領をどのように活かしているか、またはどのように活かしていくのかを書き、共有する」を行います。
三綱領は、現在も三菱グループでは使われている企業理念ですし、現代人としても理解しやすい内容だと思います。それを自分の中に落とし込んでいただき、どう生かすかを考えることに意義があります。ここがこの研修の最大の山場と言えるでしょう。
―この研修はさまざまな業種や階層の方々が参加されるそうですが、やはり三綱領に対する考え方も、立場によっていろいろと違いがありますか?
はい、かなり違います。その違いを実感するのも、研修ならではの学びです。若い方から上級管理職まで、同じグループでディスカッションやフィードバックを行うことで、気づかなかったことや新しい視点での発想など、刺激があって非常に楽しいです。若い方から出た意見を、上級管理職の方が初心に戻る感じで受け止めたり、逆に経験を積んだ立場の方からの意見は、若い世代にとって導きになったりします。
―視点を変えるというのは、全編を通じて大切なポイントだと感じました。受講者にこの研修を通じて伝えたいメッセージはありますか?
岩崎家の四代に関しては、とにかく「エネルギーを感じてください」ということに尽きますね。時代や社会の変遷とともに、基本理念を守りながら柔軟にスタイルを変えてきたリーダーシップから、前向きな活力を感じ取っていただければと思います。
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