「管理職」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。
「年次でも、立場的にも管理職になることを周りから期待されていると感じるが、管理職に対して嫌なイメージしかない」と話す中堅層は少なくありません。残業はつかない、責任は発生する、部下育成なんてガラじゃない......世間でよく聞く管理職イメージにはネガティブなものが多そうです。
しかし、そもそも管理職と一般職がどう違うのか、しっかりと理解していない一般職の方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、管理職の役割を徹底解剖し、一般職との違いや、マネジメントの面白さなどについてお伝えいたします。管理職についての理解が深まり、管理職だからこそのやりがいに興味を持っていただければ幸いです。
「管理職」になることを周囲から期待されるのは、組織によって違いますが、仕事の面白さを感じてきた30代~40代ぐらいでしょう。
ただ、管理職は人気がなく、どの組織も共通して、「若手の上昇志向が希薄である」「昇格試験を希望する人数が少ない」といった課題を抱えています。
冒頭でも少し紹介しましたが、「仕事よりプライベートが大事なので、面倒なことは嫌だ」「責任が軽い立場で無難に会社生活を送りたい」「人を評価するなんてできない」といった理由から、中間層が管理職になるのを避けがちである、と人事担当の方からお聞きします。
しかし、実態の見えない「管理職像」に対して不安を抱くのは致し方ないことかもしれません。そこで、管理職と一般職の業務・待遇の違いを細かく明らかにしていきましょう。様々な観点から、両者を比較してご説明します。
管理職と一般職の業務・待遇の比較
管理職 | 一般職 |
---|---|
権限がある | 権限がない |
人事権・決裁権がある | 人事権・決裁権がない |
目標は公約として達成しなければならない | 目標は目指すべきゴール |
目標が達成できなければ報酬を受け取る資格はない | 目標が達成できなくても給与は支払ってもらえる |
経営陣が顔を並べる全社会議に参加する | 参加しない |
経営トップの考えに直接触れる機会が増える | 直接触れる機会はあまりない |
労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない(残業代が発生しない・出勤時間が厳密でないなど) | 労働時間・休憩・休日に関しては規定がある(残業代が発生する 出勤に関しては厳密に管理される) |
労働時間や休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動する必要がある/自身で労働時間や仕事をコントロールできる | 規制の枠を超えて活動できない/自身で労働時間や仕事をコントロールできない |
経営者と一体的な立場にあり、経営に関わる判断に関与している | 経営に関わる判断には関与できない |
管理職手当がつく。賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して優遇されている | 給与体系に準ずる |
目標が達成できるよう部下を導く/メンバー間の業務の分担と調整など、業務が遂行できるよう管理する | 目標達成に向け努力する |
部下を教育・指導し、適切に育成・配置・評価を通し、部下の能力を最大限に引き出す | 教育してもらう |
機密情報の漏洩、自然災害時の対応、コンプライアンス違反やハラスメント防止などのリスク管理/リスク顕在化に向けた対策を考える | 各リスクに関し、基本的には社内規定・上司の指示に従う |
部下では難しい二次クレームの対応などを行う | 対応を責任者に変わってもらう場面もある |
また、管理職がすべて当てはまるわけではありませんが、労働基準法上で「管理監督者」の地位にある場合は、「労働者が安全で健康に働けるよう、企業側が配慮すべき義務(=「安全配慮義務」)があり、管理すべき項目が定められています。
<管理監督者の定義>
・「部」「課」などの一定規模の部門等を統括する立場にあり、人事権や決裁権などを有していること
労働監督者の地位である管理職が管理・監督すべき項目 | 管理職 | 一般職 |
---|---|---|
安全衛生管理 | 安全で衛生的な労働環境の整備とそのチェック体制の構築 | 安全で衛生的な労働環境が守られる |
労働時間管理 | 勤務実態の正確な把握と長時間労働の抑制 | 長時間労働から守られる |
心身の健康管理 | 定期的な健康診断やストレスチェックの実施と改善措置の実行 | メンタルヘルスを含む心身の健康管理が受けられる など |
このように、管理監督者になるということは、自部署のメンバーが心身ともに健康に業務に従事できるよう目を光らせ、人的リソースを最大限に発揮できるよう管理する義務が生まれます。
管理職に求められるマインド
小さな組織の経営者になるということはそれ相応の覚悟が必要です。一般職(従業員)とは異なるマインド面を見ていきましょう。
組織を経営(運営)するために管理職に必要な姿勢は以下のとおりです。
①主体的に事業運営に関わる姿勢
・HOW(どうすべきか)だけではなく、WHAT(何をすべきか)を考える
・「守り(既存事業の維持・改善)」だけでなく、「攻め(新規事業の企画・構想)」もできる
・上からの指示や判断を待つのではなく、自ら提案し行動に移せる
②すべての責任を負う覚悟があること
・自部門が関わるところで問題が起きた時に、決して逃げない
・自部門の全ての活動に当事者意識を持ってあたる
・直接関係が無いことにも関心を持ち、自分の仕事の範囲を狭めない
③収支に対する鋭い感覚を持つこと
・無駄が無いか、あらゆるところに目を光らせる
・採算がとれているかを常に気にする
・もっと儲かる方法は無いかと試行錯誤する
④理念、方針、戦略に対する深い理解があり、部下・後輩に明示できること
・「理念」組織の存在意義や、組織活動を通して体現していくべきものを明示できる
・「方針」理念を実現するために、組織活動を行う者全員に従わせるべき指針を示せる
・「戦略」理念の実現に向けて具体的に何を行うかという、活動の方向性を示せる
このような「経営者マインド」は、かつての変化の緩やかな時代において必要なかったかもしれません。しかし、現在のように変化が激しく不確実性の高い時代においては、管理職自らが主体的に事業の先行きの見通しを立て、判断力をもって決断し、行動に移す「自部署の経営者」となることが期待されています。
前項で、「管理職には、『自部署の経営者』となることが期待されている」と申し上げましたが、もう一歩踏み込んで、経営者とはなにかということを考えてみたいと思います。 経営者とは、言わずと知れた組織のトップです。理想を掲げ、経営理念を抱いて起業した方がほとんどだと思いますが、そのトップに見えているものとは何なのかをご説明します。 経営者は、組織の理想や社会的にあるべき姿など、対外的な視座も併せ持ち、広い範囲で物事を見ています。
<経営トップが目指す目標と、見ている視野>
①利益追求:組織として全従業員の給与を支払い、企業の目指す業務に対して先行投資する
②組織の成長:右肩上がりの成長とは言わないまでも、良い企業に育てること(様々なステークホルダーに支持されること)
③人材育成:「企業は人なり」企業を支えてくれ、共に闘う同士を育てること
④企業責任(CSR)の追及:社会的な還元を目指す 企業として、働きがいのある職場環境を実現する
〇役職が変われば「視座」も変わる
一方、組織におけるポジションによって、ものを見る時の視点の"高さ(=視座)"は変わります。例えば、経営トップが見ている視野を、より現場に近い(視座が低い)管理職の立場から見るとこうなります。
<管理職が目指す目標と、見ている視野>
①利益追求:自分と、自部署のメンバー分の給料を賄えるくらいの収益を確保する
②組織の成長:チームとして、メンバーとコミュニケーションをとり、共に目標達成を目指す。やりがいを追求し、働きやすい良いチームになっていくこと
③人材育成:ムダを減らし、それぞれの強みを発揮して成果をあげていくために、能力を引出し、人を育てる。部下の不調に気づき、サポートする
④企業責任の追及:チームの中で、ハラスメントやコンプライアンス違反が出ないように気を付け、風通しの良い環境を作ること。リスクが顕在した時に初動を指示する第一人者としての責任を持つこと
このように、現場管理職には、経営トップが掲げているものを、自組織・自チームに落とし込んで実践していけるかどうかが問われます。
〇経営者視点は俯瞰で空から、管理者は地表も見る ~「鳥の目」と「虫の目」
高い視座から俯瞰して見る経営トップの視点は、「鳥の目」と表現されます。経済状況や会社の方向性、日本だけでなく海外の情勢など、大きな船のかじを取るために、木ではなく森全体を見ることが必要です。
管理職は、トップが見ている「鳥の目」を持って組織全体を捉えつつも、現場にフォーカスして「虫の目」で実態を把握することが同時に求められます。森を構成している、木の一本一本の生育を観察し、少しの変化も見逃さない「虫の目」で現場を把握し、提案を求められるのが現場管理職ということになります。
管理職には、経営層の末端として「鳥の目」と「虫の目」を切り替えながら、組織内外の総合的な最適解を模索することが求められます。この視点の切り替えが柔軟にできずに、どちらかに固定してしまうと、視野が狭くなる・あるいは現場が見えなくなる、といった問題が起こります。
「鳥の目」ばかり意識すると......現場が見えなくなる。
→メンバーの変化やリスクの前兆に気づかない
「虫の目」ばかり意識すると......視野が狭くなる。
→自部署だけ良ければいいという考えは、組織全体としては無駄や非効率を生む。場合によってはマイナスの影響を与えることにもつながる
〇役割が変われば「意識すべきターム(期間)」も変わる
実務を担う一般職であれば、その日、その週、その月の目標を達成することが重要であり、この先の計画や見通しを考える際にも、せいぜい1年のスパンで捉えることが一般的でしょう。
一方、組織の発展や永続を使命とする経営トップは、10年、20年といった長期的な視点をもって戦略を立てたり、経営判断を行ったりしているはずです。そうした中で、部門経営者としての管理職に求められるのは、経営トップの意向を汲み、長期的な戦略に沿って部門運営を行うべく、中期的な活動計画の立案とその実行、ということとなります。
なお、ビジネスにおいて「中期」という場合、3年から5年を指すことが一般的です。例えば、以下のような項目において、短期と中長期では大きな違いがあります。
■短期的視点と中長期視点の違い
短期 | 中長期 | |
---|---|---|
人材育成 | 今の仕事に効果が発揮されることを想定して人を育てる | 昇格後や異動後も含めた将来の組織貢献に期待して人を育てる |
成果 | 今期の成果につながるための活動に注力する | 来期以降に成果が表れることを想定して今期の活動を行う |
改善 | 今の課題の解決に資する改善活動を行う | 将来顕在化する課題に対して先手を打って改善活動を行う |
投資 | 今の成果に対して確実に効果を生むものに投資する | 将来の成果に貢献する可能性に賭けて投資する |
目先の目標だけでなく、短くても3年後、長くて5年後10年後の組織の姿に思いを馳せていきます。言うならば、森を構成する新しい木を植える・種をまいていく仕事も管理職になったら考えなければいけないということです。育てた森を引き継いでいくことも、組織のDNAを引き継ぐという意味で考えなければならない業務となります。こういったことの積み重ねが、「経営者・経営層」の感覚を自分の中に落とし込んでいくことにつながり、一般職との意識の大きな違いとなっていきます。
管理職を徹底解剖、いかがだったでしょうか。 日々の業務に真摯に向き合っていれば、本人が意識しなくとも周囲に頼られ、慕われ、チームとして成果を出せるようになっていきます。その先にある立ち位置が「管理職」であり、「部門経営者」であると言えるでしょう。「ヒト・カネ・モノ」といった組織の経営資源を上手く配分し、一人ではできないような提案や改善を実行していくことは、会社を動かす経営者の高揚感を味わえることに相違ありません。新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年春から日本でもリモートワーク(テレワーク)が必然として一気に拡大しました。そのことにより、企業や組織において管理職の役割も変わり問題点や課題も変化しています。
リモートワークを成功させるための管理職の役割
①管理職の役割、コミュニケーション
リモートワークでは、会社のリアルの場で顔を合わせる場合とは諸々異なります。例えば、リモートワークでは困ったことや疑問に対して、周囲の人にタイムリーに相談することが難しくなります。Zoomなどオンラインミーティングツールを定期的に使用して、朝礼や夕礼などのミーティングを行ったり、電話、メール、日報、チャットなどの活用によって、自宅での在宅勤務者の業務の状況を定期的に把握する工夫が必要になってきます。管理職の役割(マネジメント)として、何の仕事をしているのか、困っていることはないのか、進捗具合はどうなのかなど定期的に確認していく必要があります。
②管理職の役割、モチベーションの維持
リモートワークでは、行っている業務(仕事)を見てもらえない、同僚や上司から評価がされていないと感じることが多いものです。管理職である上司がリモートワークを行っている在宅勤務者の日報を毎日必ず確認して、フィードバック行っていくことが重になります。
③管理職の役割、セキュリティとコンプライアンス
自宅での勤務となるリモートワークは、プライベートとビジネスの境界があいまいになります。そのためセキュリティ面のリスクが会社での勤務に比べ多くなります。管理職自身がリモートワークで必要な情報セキュリティとITリテラシー、コンプライアンスについて研修などで学ぶ必要があります。業務フローやチェック体制など考えられるリスクの洗い出しも必要です。
リモートワークで管理職に求められる役割を正しく理解して、「管理職」のあなたが会社を動かしていきましょう。
<関連リンク>
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