今回は、立場の違う相手とベクトルを合わせていくためのスキル「エンパシー(共感力)」をご紹介します。
人材育成の課題の一つとして掲げる組織も増えている「エンパシー」について、改めて知っておきたい定義や、エンパシーを発揮するために具体的に何をすればよいのかなど、参考にしていただければ幸いです。
■エンパシーとは、「もし自分が〇〇だったら」を考えるスキル
心理学の世界で、エンパシーは「自己移入」とも訳されます。 自己移入とは、「もし自分が〇〇だったら」を考えること、 と言い換えると分かりやすいでしょうか。
自分とは異なる立場の相手を○○の部分に入れ、相手の考えや思いを想像して理解する。 これがエンパシーの意味する「共感」です。たとえ相手の考えに同意できなくても、いったん「自分事」として受け止めることで、 自分だったら何ができるかを考える力が養われます。
■なぜ、ビジネスにおいて「エンパシー」が必要なのか
ビジネスの世界においては、価値観や考え方が違っている、あるいはそもそもどんな価値観をもっているのか分からない、 という相手とも協働しなくてはなりません。そこで必要とされるのが、エンパシーです。
エンパシーによる共感は、たとえ相手の考えに賛成できなくても、 その心情を汲むことで分断を回避し、建設的な議論を推し進める力を生み出します。 その力こそ、立場の違う相手と一緒に仕事を進め、成果を生み出すための源となります。
ケーススタディ~エンパシーを発揮するために!
ビジネスの現場においては、ただ「そうだね」と共感しているだけでは、何も解決しない、ということも多々あります。 組織にとって一番良い結果を出すためには、相手の立ち位置から気持ちを想像したうえで、 組織の目的に沿って考えを一つにまとめていくことが重要です。
そこで、ここからは具体的に「上司と部下」「お客さまと応対者」という立場の違う両者の間で、 エンパシーを発揮してどのように現場の課題を解決できるかを見ていきます。
(1)部下から上司へのエンパシー
若い部下、特にこれまで学生だった新入社員は、上司から求められていることを 理解するようになるまでに時間がかかります。 それでも、エンパシーを発揮することで、上司の考えに近づくことができます。
<上司へのエンパシーが足りない新人の例>
上司A
「頼んでおいた昨日の会議の議事録作成は進んでいる?」
部下B
(忙しそうだし、心配かけないほうがいいかも)「大丈夫です」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
上司Aの心情
(一瞬間があったけど、本当に大丈夫かな。具体的な進捗報告がほしいな......)
<上司へのエンパシーを発揮している新人の例>
上司A
「頼んでおいた昨日の会議の議事録作成は進んでいる?」
部下B
(進捗の確認が必要なのかな)「はい、進んでおります。
本日の15時までにはメールでお送りしますので、ご確認お願いします」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
上司Aの心情
(15時までにできるのか、それなら安心だ!)
★部下がエンパシーを発揮するには?
>>>上司の「知りたがっていること」を想像する!
上司は部下の仕事を管理する立場です。部下が今何をしているのか、 仕事は問題なく進んでいるのかを常に知りたがっています。 なぜなら、上司はチームの目標を達成させる責任があり、 もし課題を抱えているメンバーがいたら早急に把握し、 改善策を打たなければならないからです。
課題をそのままにしてしまったり、自分で勝手に判断したりすると、 その時は大事に至らなくても、チームや組織の問題に発展してしまうリスクがあります。 必ず上司や先輩に「相談」し、指示を仰ぎましょう。
自ら積極的にホウ・レン・ソウをし、上司の意見をたくさん聞くようにすると、 上司の判断軸を獲得していくことができます。
(2)上司から部下へのエンパシー
他部署からの異動や中途入社などにより、これまでとは違う価値観を持ったメンバーと 同じチームで働くことになった方、特に新しくリーダーになったというような方こそ、 エンパシーを発揮すると上手くいきます。
<部下へのエンパシーが足りない上司の例>
部下C
「このように処理していいですか? なぜなら......」
上司D
(効率が悪そうだな)「その処理の仕方はおかしいよ。僕が指示するやり方でやって」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部下Cの心情
(今までのやり方でいいかどうか、確認しておきたかっただけなんだけど......)
<部下へのエンパシーを発揮している上司の例>
部下C
「このように処理していいですか? なぜなら、従来通りのやり方であり、一番ミスなく実施できるからです」
上司D
(このやり方はミスなくできるのか。違うやり方でも良さそうだけど、
何か問題があるのかもしれない。Cさんの意見を聞いてみよう)
「なるほど。確かにこういう処理の仕方もあるよね。前の職場では、コストも踏まえてこういうやり方でやっていたんだけど、Cさんはどう思う?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部下Cの心情
(今までのやり方がいいと思っていたけど、確かにその方法なら
もっと効率よくできそうだな!相談してよかった!)
★上司がエンパシーを発揮するには?
>>>部下の意見を最後まで聞く!
たとえ賛同できない意見だったとしても、話が終わらないうちから 部下の意見を否定してはいけません。部下からの意見具申を弾き返し、 意見が上がってこなくなると、多様な視点での判断やチェックがなされなくなり、 見落としのリスクの増大などチーム運営に様々なデメリットが生まれます。 上司は部下から何を言われてもまずは受け止め、自身の意見に導く際は感情論ではなく論理的に、 その背景まで含めて根気強く説明していくことが大切です。
また、部下が上司に対して萎縮せずに意見を述べ、力を発揮できるようになるためには、 日ごろからの信頼関係の構築が欠かせません。 そのためにまずは、部下が上司に「話しかけやすさ」を感じられるようにすることが重要です。
例えば、
・意識して部下の名前を呼ぶ
・基本の表情を笑顔にする
・依頼の際には「~してもらえると助かる」といった「肯定表現」を使う
など、日常のちょっとした行動や発言にも気を配るとよいでしょう。
(3)社外の人(顧客)へのエンパシー
お客さまなど社外の人の話を伺うときは、より一層の配慮が求められます。相手の言葉に対して杓子定規な応答をするのではなく、「どうしてそのようなことを話すのか」について想像してみることが重要です。
<顧客へのエンパシーが足りない応対者の例>
お客さま
「12時~15時予定のインターネット開通の工事ですが、
工事の音はなんとかすることできませんか?」
応対者
(何か事情はあるんだろうけど)「工事には少なからず音が発生してしまいますので、
どうしても音を出さないようにということであれば、インターネットの開通は難しいと存じます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お客さまの心情
(12時から15時は子供の昼寝の時間だから、音は出さないでほしいんだけど......)
<顧客へのエンパシーを発揮している応対者の例>
お客さま
「12時~15時予定のインターネット開通の工事ですが、
工事の音はなんとかすることできませんか?」
応対者
(ご事情によっては調整ができるかもしれない)
「差し支えなければ教えていただきたいのですが、工事の音を懸念されているのは、
周囲への影響がご心配でしょうか?」
お客さま
「いえ、うちには生後1か月の子供がいるため、
12時~15時の昼寝の時間に音がするのはちょっと......」
応対者
「それでは、10時~12時の工事手配が可能でございますが、いかがでしょうか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お客さまの心情
(うちの事情だから仕方ないと思っていたけど、調整してもらえてよかった!)
★応対者がエンパシーを発揮するには?
>>>お客さまの「背景」に思いを馳せる!
お客さまの目的はどんなことか。その達成を阻害しているのはどんなことか。 相手に確認しなければならないことは質問をしましょう。 双方にとって納得の行く「より良い成果」を出すために、相手の考えや要望を訊き出すことも必須です。
そのためには、答えが限定されない『オープン質問』と、 「YES/NO」で答えられる、あるいは答えが限定される『クローズド質問』を 駆使することで、より詳細な状況を確認し、案内事項に反映させるようにするとよいでしょう。
■最後に
今回ご紹介した「上司と部下」、「お客さまと応対者」のケース以外にも、 ビジネスの世界においては様々な「立場の違う相手」との協働が求められます。
例えば、従来から顕在化している、 男性と女性、若年層とシニア、日本人と外国人、子育て中の人とそうでない人。 さらに、特にこの時期多くなっていると思われる、 ニューカマーとベテラン、テレワークをしている人としていない人、etc.
多様な人材が組織の目的に沿って成果を上げるためには、
今回ご紹介した「エンパシー」が欠かせません。
自分と立場の違う相手の背景に思いを馳せ、積極的にコミュニケーションを取ることで、
お互いが安心して仕事ができる環境を整えることができます。
皆さまの職場におかれましてもご参考になりましたら幸いです。
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