研修を語る
2024/05/21更新
クリティカルシンキング研修を語る ~本質を見抜く力を養う
疑問を持つことで、物事の本質を見抜こう
―「クリティカルシンキング」は、日本ではまだあまり浸透していない言葉ではないでしょうか。ウェブの講座紹介には「本質を見抜く」「現状を疑う力」......とありますが、英語の直訳とは少しニュアンスが異なる気がします。内容としてはどのような事が学べるのでしょうか。
そうですね、クリティカル(critical)の英語本来の意味では、批判的ということなので、ネガティブに捉えられることが多いのですが、この研修で学ぶクリティカルシンキングは、「疑問を持つ」という意味でお考えいただくとしっくりくると思います。
変化のスピードが速いビジネス環境(例えば、コロナによる様々な環境の変化)では、昨日まで正しかったことが、今日も引き続き正しいという保証がありません。そのため、現状を鵜呑みにせず、前提や思い込みを取り除き、あらゆる角度から可能性を考えて、最適な結論を下すことが必要となります。こうした考え方や物事の捉え方ができるスキルを身につけていただける内容です。
―あらゆる可能性を考慮して決断を下す、前向きな思考方法ということですね。ちなみに、レベルとしてはどれくらいを想定すればいいでしょうか。基本編や応用編など、バリエーションがありますか?
どういった層の人に対しても、まずは物事を「あるがまま受け入れるのではない」ということを認識していただき、そこで得た結論に対して「では、次はどういうアクションを起こすべきか」を考えていただくことが目的になっています。とてもシンプルなので、そこに基本編や応用編というものはございません。
例えば、毎日ルーティンとして行っている業務は、無意識に「当たり前に行う仕事」として捉えているのではないでしょうか。こうしたことを「当たり前のこと」として思うのではなく、「本当に必要な業務なのだろうか」、あるいは「このやり方は正しいのか」などと考え、分析を重ねたうえで、「不要な業務なので廃止する」や「もっと効率的なやり方に変える」などの新たな結論に到達できるスキルを身につけることができます。
―逆に考えれば、すべての入り口になるのがクリティカルシンキングと言えますね。言葉を聞いただけでは曖昧なイメージでしたが、アウトラインがつかめた気がします。
業種、立場を問わず、さまざまに活用できます
―受講者の方々は、どういった背景でお申し込みになるのですか?
「表面的でなく、深く考える力を向上させたい方」や「物事を考える力を鍛えたい方」などで、具体的には、仕事の効率向上や業務改善などに取り組む方、多角的な視点を身につけたい方、枠にとらわれない発想を持って仕事をしていきたい方、マネジメントとして管理業務や部下指導に活用したい方などです。
―業種や職種としては、どのような方面の方が多いのでしょうか?
業種は様々だと思います。職種としては、組織の体質強化や効率向上に取り組む管理部門の方や、お客さまや取引先とのやり取りが必要な職種、例えば営業職やサービスエンジニア職、システムエンジニアなど客先に常駐するケースもありますので、バックグラウンドはそれぞれ異なりますが、人と折衝する職種の方も、よく受講されています。
人と折衝する場合、すべて相手の要求通りに動くわけにはいきません。一旦ご要望やご意見を受け止めた後で、情報を分析して整理して、結論を導き出すということが日常的に求められます。こうした職種には、クリティカルシンキングが必須スキルと言えます。
―クリティカルシンキングの意義やプログラムの内容から考えると、新人や若手というより、やや経験のある方向けと考えてよろしいでしょうか。
そうですね、新人や若手にも必要なスキルですが、新人や若手には、もっと基本的な知識やスキルの習得が優先されるのだと思います。なので、受講者のメインは数年の業務経験を積んだ担当者ということになるでしょうか。また、マネジメント職としても、部下への指示であったり、部下からの報・連・相を受ける際にも、また自身が企画を考える際にも必要なスキルだと思います。
―この研修を受けることで得られる、スキルやメリットにはどんなものがありますか。
一番のメリットは、"モノ"の捉え方や考え方が深くなることによって、自らの意見や考えが明確になり、かつそれを発信できるようになることだと思います。見たまま、聞いたままを受け取ってしまうのであれば、そこに自身の考えや意見は生まれませんので、自立したビジネスマンに必須なスキルだと思います。
具体的には、受講者の生の声として、研修の終了時にアンケートをお願いしておりますので、その中からいくつかご紹介しますと、「自分の仕事のやり方に疑問を持つことで、業務改善につながる実感がわきました」というのが最も多いご意見です。
また、ちょっと観点が異なりますが、「率直に疑問点を投げかけられる職場環境を作っていきたい」というご意見がマネジメント職からのお声としてありましたが、言われたことを単純に受け止めるだけでなく「どういうことですか」と自由に質問できる、その環境が業務改善につながるのではという内容でした。
―それは良い取り組みですね。日本の職場では、質問を反論と取られてしまうケースもありますので、疑問があっても黙っている人が多いと思います。
そういった質問などの発言だけでなく、文書としての企画書や提案書などに対しても有効なスキルで、これらを自分で作成するにしても、他者の書類をチェックするにしても、クリティカルシンキングを用いて多様な可能性を検討しながら作成する、チェックするなどによって、完成度は違ってきます。さらには、何らかの問題への対処に関しても、その表面的な事象だけに捉われた対応ではなく、様々な視点で捉え、情報を整理したうえでの対応が可能となります。
―そう考えると、やはり中堅以上ですね。管理職であれば、有効活用の機会が多いと思います。
そうですね、先ほどもお話ししましたが、マネジメントで言うと、様々な「報・連・相」を受けるわけですので、部下から言われたことに対して「こういったことが必要ではないか」など、さらに踏み込んで考え、発信することにより、部下の指導や教育にもつながるというお声もいただいています。
また、営業の方ですと、自分が売りたい商品があったとしても「お客さまにとって、それは本当に一番良い商品だろうか」と考えることで、最終的に、顧客の利益を守り結果的に高い評価につながります。このように様々な職種や立場であっても、クリティカルシンキングの活用は有効だと言えます。
思考が劇的に変わる、ユニークなワークの仕掛け
―研修テキスト第二章の最初の項目に「ロジカルシンキング」が組み込まれています。ロジカルシンキングは論理的な思考により、相手の理解を深める基本のビジネススキルとして人気ですが、これはクリティカルシンキングの基礎になると考えていいのでしょうか。
クリティカルシンキングは、まず、物事を本当かと疑ってみる「疑問」、他の視点から物事をとらえてみる「分析」、そして新しい主張や見解を出してみる「再構築」という3つのステップから成り立っておりますが、ロジカルシンキングは、二ステップ目の分析の部分で必要となるスキルです。
クリティカルシンキングでは、最初に「本当にそうなのか」、ということから思考がスタートしますので、当然ながらそのように疑った情報の整理や分析が必要となります。その際に、自分の分析結果がロジカル(理論的)でないといけません。そのため、二ステップ目の分析の部分で、ロジカルシンキングの基本を学んでいただきます。
―各章ごとのワークもさまざまなものがあります。この中で特徴的なものを挙げるとしたら、どれになりますか。
そうですね、ワークは各章ごとにありまして、それぞれのステップで必要となるスキルに特化して、自らそれらを体感するというか、実際に取り組むことで、理解していただくようになっています。ここで、特徴的なワークとして挙げるとすると、冒頭のケーススタディを二章のワークでまた取り上げるという仕掛けが特徴的なのかもしれません。
―第二章の最後にあるワークの題材が、第一章の最初のケーススタディをベースにしているということですよね。どんな仕掛けなのでしょうか。
第一章のいちばん最初、まだクリティカルシンキングについてまっさらな状態で、あるケーススタディ、とある会社で起こった在庫切れの問題なのですが、これを読んでもらいます。そして「皆さん、まずは疑問に感じることを自由に書き出してください」というワークを行います。ここでは自由に思ったことを書いていただくだけで、グループでの共有はしません。
―それは何故でしょう。インソースの研修では、個人で考えたワークは、グループで共有してフィードバックを行うケースが多いですよね。
その通りです。しかしながら、ここでは、個人でどこまで「疑う」ということができるのか、体験していただくのが目的です。いきなり「疑問を持て」と言われて、自然にそれができる人もいれば「何を疑っていいのかわからない」という人もいて、かなり両極端です。
そしてその後、クリティカルシンキングの思考方法を学んでいただき、二章の最後のワークで「さっき学んだ内容を踏まえて、もう一回改めて疑問を持って下さい」という流れになります。これが、この研修の中で最も大きなポイントとなる部分です。
―それはユニークな仕掛けですね。改めて二回目のワークをやってみる頃には、ずいぶん物の見方が変わってくるのではないでしょうか。
そうですね。最初は本当にいきなり、何の知識も情報もなくやっていただきますので、なかなか苦戦する方もいらっしゃいます。人によっては普段から疑問を持つ習慣のある方もいらっしゃいますが、そうでない方は、考え方が劇的に変わることも少なくありません。
―劇的に変わる方が、最も気づきの多いことはどういったところなんでしょうか。
自分がどこまで疑えるか、ということだと思います。ワークの事例で言えば、派遣社員がプリントアウトする資料が在庫切れしたという問題なのですが、「派遣社員の自覚が足りないのでは」、ということから「派遣社員の業務管理を係長がやるのはどうなのか」や、「プリントアウトを派遣社員にさせる必要があるのか」から、果ては「プリントアウト自体が本当に必要なのか」まで広がっていくのです。疑うことに際限はないというのがポイントです。
人によっては、「会社が決めたことだから」と疑う対象を狭めてしまう人もいます。その判断基準は個人によって全く違うということも、この研修で得られる大きな気づきのひとつでしょう。その線引きをどこまでにするかというのが、人それぞれの考え方や立場などで差が大きい部分です。
実行の際の注意点についてもフォローしています
―第四章の題名が「クリティカルシンキングの注意点~配慮すべきこと~」となっています。項目にも「論理性 vs. 感情」といった、非常に気になる文言が出てきますが、やはり配慮しないと難しい部分もあるのでしょうか。
冒頭で申し上げた、英語の持つクリティカルという意味が、誤解されやすいということは知っておくべきだと思います。クリティカルシンキングはアメリカで誕生し、米国の大学などでは基本的なプログラムとして根づいています。日本でも2000年代に入ってから使われるようになったのですが、業界によっては認知度が極端に低いです。
和訳も「批判的思考」などと訳される場合があり、そのせいで誤解されてしまうと、どんなに正しいことを言っても相手にされなくなりますので、そこを注意しておきましょう、ということをお伝えしています。また、受講者の皆さんが活用されるときも、都度よく考えて使わないと、うまく回りませんよと申し上げています。
―「こういう使い方では失敗しますよ」という例を教えていただけますでしょうか。
「言われたことを、そのまま鵜呑みにしないでください」というのが、クリティカルシンキングで最初に学ぶスキルですが、鵜呑みにしない、そのまま受け取らないという行為は、相手の立場からすると拒否になってしまうこともあります。特に会話の場合はそうですね。
「これをこうしてください」と上司から指示され、「ちょっと待ってください。これって本当にそうなんですか」とストレートに疑問をぶつけると、円滑な業務遂行が阻害されますし、上司からすると「なんだお前は、反抗するのか」ということにもなりかねません。
―それはまずいですね。上司の指示に間違いがあった場合でも、直球で疑問を口に出してしまうと立場が悪くなりそうです。
ですので、活用の仕方も注意が必要です。クリティカルシンキングを活用しても、口に出して言う必要はありませんし、自分の中で整理して業務を進めていけばいいと思います。そこを勘違いして理論を振り回してしまうと、職場で浮いて苦労すると思います。
ロジカル+クリティカル+ラテラルで相乗効果
―クリティカルシンキングには、必ずロジカルシンキングも必要になる、ということでしたが、この二つをセットで受講する方もいらっしゃるのではないでしょうか。
お客さまからの研修相談に対して、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングを合体させて、一つの研修カリキュラムとして提案することもあります。また、水平思考を学ぶ「ラテラルシンキング」という講座もございまして、クリティカル、ラテラル、ロジカルをセットにした「トリプルシンキング」というコースも人気があります。
―これはみっちり学べそうですね。もし、まとまった時間が取れない方が、単独の研修をひとつずつ学ぶとしたら、どのような順番がよいでしょうか。
単独で受講されるのであれば、やはり最初にロジカルシンキングを受けていただくことをおすすめします。これは社会人としての基本スキルだからです。そしてその次にクリティカルシンキング。最後はラテラルシンキングという流れをおすすめしますが、実はクリティカルシンキングの第三ステップ「再構築」は、"新しい主張・見解を出す"ステップなので、ラテラルシンキングの領域に関わるからです。
―それぞれに関連性のある思考方法というわけですね。受講の際の参考になります。最後に、「こういう方にクリティカルシンキング研修をおすすめします」というのはありますか?
何でも言われた通りにしかできない人ですとか、「君の意見が聞きたい」と言われているのに、意見が思いつかないような人には、ぜひ受けていただきたいですね。また、マネジメントに関わる方にも必須のスキルだと思いますし、ポジションが上がって「もう一歩ステップアップしたい」という方にも、非常に役に立つ思考方法だと考えます。
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